「満足」
Zufriedenheit
Christina Berndt
(2016年)
幸福を追い求めるよりも、満足を追い求めよ。幸福は一過性のものであるが、満足は持続する。そして満足は自分の心の中の基準を変えることにより、誰もが得ることができる。満足を再認識し、それを得るためのノウハウを述べた本である。
ドイツ語のレベルをキープするために、小説だけではなくて、たまには論説文も読まなければいけないと思って読み始めた。本自体は、昨年(二〇一六年)の暮れ、フランクフルト空港で「ベストセラー」として横積みになっていたので買ってきた。個人的な話になるが、昨年以来「いろいろあって」閉塞感というか、人生に疑問をいただくような心理状態で生きていることが多かった。偶然とは面白いもので、そんな心理のときピッタリの本を選んだことになる。困難に出会っても前向きに生きるためにどうしたらよいのか、どんな状態でも満足して生きるためにどうしたらよいのか、この本から学ぶことが多かった。
この本のメッセージは実に明確である。
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幸福は刹那的であるが、満足は持続する。幸福になることを狙うよりは、満足を求めよ。
A
満足は主観的なもので、周囲の状況が変わらなくても、考え方を変えることによって得ることができる。
B
満足は訓練により、得ることが出来る。
以上の三点に凝縮できると思う。この本の中で、数々の役に立つフレーズがあったが、その中でも一番自分の今と将来に役立つのは以下のようなものだ。
「悪いことは常に存在する。それをより悪くするのは、あなたがいつまでもそれを悪いと考えているからである。」
悪いことがあっても、いつまでもクヨクヨ考えないで、先に目を向けることにより、展望は開けるのである。とは言え、
「人間許すことは簡単にできても、忘れることは簡単でない。」
ということもある。悪い記憶は尾を引く。それからなかなか抜け出せないのも確かだ。著者のベルントもそのことを「悪の循環」と名付けて、それを認めている。しかし、そのような人が、少しでもポジティブに考えられるようになるために、努力する方法がこの本には述べられている。私もそのいくつかでも実行していきたいと思う。
著者のクリスティナ・ベルントは、一九六九年生まれの、ドイツのジャーナリストである。彼女は、ドイツの数多くの新聞や雑誌で、健康や医療に関する記事を担当してきた。特に、精神医学、人間と社会の関係についてのテーマを得意としているとのことである。彼女の大学での専攻は生化学であるという。それを知って、
「道理で、ホルモンに関する記述が多いのだ。」
と私は納得した。実際、喜び、悲しみ、満足、フラストレーションといった人間の状態は、ホルモンによって作用されているのである。
各章の最後に、実際彼女が出会った人物を引用した「ケーズスタディー」がある。彼女がそれまで述べた理論が、どのように実践されたか、例が載っている。これは分かりやすくて非常に良かった。それだけではなく、専門書ではあるが、万人向けに読み易く書いてある。それでも、論説文は小説のようにサラッと読んで理解することができず、読むのに時間がかかった。二百三十ページの本を読み終わるのに丸二ヶ月を要してしまった。しかし、それだけの価値のある本であった。
日本の皆さんにも読んで欲しい本だが、残念ながら、この本が翻訳されることは、私がそれをやらない限り皆無に近いと思う。
(2017年5月)