満足感は遺伝するのか
満足を感じることは遺伝するものなのか。ファーンハムとチェンの調査によると、ほとんどの人が「幸福の遺伝子」があることに同調している。前述の五つの特性を使った調査の結果、性格も確かに遺伝することが確認された。それは、双生児を使った調査でも裏付けられた。ミネソタ大学には双生児、八千組のデータがある。それを使った調査によると、ほとんど同じ遺伝子を持つ一卵性双生児は、育った環境が違ってもの、満足の感じ方に関しては共通点があった。しかし、二卵性双生児の場合は、同じ環境で育っても、満足の感じ方に違いがあった。その結果、遺伝が満足度に与える影響は四十八パーセントと推測された。
そのことはチンパンジーの調査によっても証明された。食料に上手く到達できないときイライラした素振りを見せる傾向は、五十パーセントの確率で遺伝していた。また、二卵性双生児の場合、遺伝子の合致が一卵性に比べて半分になるが、遺伝する確率は半分よりもはるかに低いものであった。満足度の遺伝の確率は、血が濃くなるに従って乗数的に高まると考えられている。しかし、具体的にどの遺伝子と関係しているかは解明されていない。複数の遺伝子が関連しているものと考えられる。
何年もの調査を通じて、常に満足度が一番高い民族はデンマーク人であり、低い民族はイタリア人である。もちろん、デンマークの社会制度とも関係があるかもしれない。セロトニンというホルモンは、人間を落ち着かせ、冷静にさせる。デンマーク人は遺伝的にこのセロトニンを分泌させる遺伝子5−HTTLPRを備えている。デンマーク人に遺伝子的に近い民族ほど満足度が高く、遺伝子的に離れている民族ほど、満足度が低い。経済的、宗教的、個人的な理由では説明のつかない部分が、この遺伝子で説明できる。
満足度の感じ方を決定するものは、「性格が五十パーセント、遺伝子が三十パーセント余、残りが環境」と言い切ってしまっていいのだろうか。実はそれほど単純ではない。環境が性格に影響することもあるし、人間は環境を操作することもできる。誰もが元々満足と感じるか不満足と感じるか基本的な傾向は持っている。しかし物事を肯定的に見る、否定的に見るかは、遺伝子のみによって決定されているわけではない。しかし、元々否定的なものの見方をする傾向のある人は、満足度を得るためのハードルが高いということはできる。
ケーススタディ、ルイゼ・ブラウンの場合
キールに住む女性弁護士ルイゼ・ブラウンは、これまでほぼ三年ごとにパートナーを取り換えてきた。理想の男性だと思ってつきあい始めるのだが、そのうち良い面を見つけることができなくなってくる。そんなときに次の理想の男性が現れて乗り換えてしまう。しかし、彼女はそれが偶然でないことに気付く。彼女はいつも百パーセント満足できる男性、「ミスター・パーフェクト」を求めてきたことに気付く。最初は完璧な男性と思っても、そのうち粗が見えて来る。不完全になった男に用はない。そして、魅力的な彼女には常に「次」があった。そのうちに、両親や、兄弟が、クリスマスに彼女とパートナーに来てほしくないと言い出した。毎回新しい男で、少し慣れたから代わってしまうのが不快になったのだ。彼女は初めて自分が感じる不満足に不安を抱くようになった。彼女自身、新しい男と付き合い始めるとき、何となくあらかじめ「賞味期限」を設定したたこと気付く。完全な人間はいない。完全なパートナーを求めることは、自分を孤独にすることだったのだ。彼女は、こんなことを続けていられないと思うようになった。そして、カウンセリングを受ける。どんな男性も、どんな仕事も完全なものはない。しかし、不完全でも、その都度一から始めるよりはよいと考えるようになった。彼女はインターネットのサイトなどで簡単にパートナーが見つかり、選択肢も多い現代の社会にも責任があると考える。ともかく、彼女は、不完全さ、嫌な面も含めて相手を好きになることを学びつつある。