歌声

 

細長いカヌーを横に三隻つないだ漁船が帰って来る。その形が網を張るのに適しているらしい。

 

僕とGさんは立ち止って歌声に聞き入った。それは海の方から聞こえてきた。見ると、細長い船を三隻つなげた漁船がこちらへ向かっている。櫂を漕ぎながら、漁師たちが歌っていたのであった。

「良いねえ。」

「これは正にアフリカだね。」

と僕とGさん。彼は後で、その歌声を聞いた時が、ルワンダに来てから最も感動した場面のひとつだと言った。ボートレースだと、コックスという役割の人が一番後ろに坐っていて、その人が、漕ぎ手のリズムを取る。漕いでいる漁師たちの動きがピッタリと合っているので、おそらくその歌がコックスの掛け声の役目をしているのだと思う。

「コーヒー娘」のおふたりと夕食を共にした翌日、Gさんと僕は朝六時から散歩に出かけた。海岸に沿って、崖の上の道を歩いているときに、その歌声を聞いたのである。

しばらく歩くと、下の方に船が見えた。そこに船着き場があるらしい。見ると、斜面を下る急な道がついている。僕たちはそこを下って行った。

斜面の下は小さな湾になっていて、そこに先ほど見たのと同じ漁船が泊まっていた。数人のプラスチックの洗面器を持った女性が、その漁船の横に立っている。漁師のひとりが、その洗面器を受け取ると、船に戻り、プラスチックのしゃもじのようなもので何かをすくい、洗面器を満たして戻って来た。見るとその中には薄ピンク色のサンバサが入っていた。女性たちはその洗面器を頭の上に乗せ、手を使わないと上り下りが出来ないような急斜面を登っていく。

「何というバランス感覚。」

僕はアフリカの女性の、何でも頭に乗せて運んでしまう技術に感心した。

朝から登ったり降りたり、結局一時間四十五分も「散歩」をしてホテルに戻る。朝食のとき、泊り客は僕たちも含めて二組だけであることを知る。もう一組は四十歳くらいの、Gさんと同じく、ボランティア組織にお勤めで、エチオピアに住んでいるというオーストリア人。彼は、二十代のスレンダーな黒人女性と一緒である。

「あれ、絶対『現地妻』だよな。」

Gさん僕は言い合った。もちろん日本語で。アフリカンティーを朝食のときに飲む。ミルクティーなのであるが、ハーブの香りがして、例によって加工していないトロリとした牛乳が大量に入っており、砂糖も大量に投入されている。

「とにかく、台所にある物を適当に何でも入れてある茶だ。」

と隣のオーストリア人が言った。まあまあ美味しい。

 キガリに戻る前、僕たちは市場に寄った。日用品から衣服、野菜、果物、そして魚。サンバサも売っていた。しかし、サンバサはざるに乗せただけで、冷蔵庫に入れるでもなく、氷と一緒というわけでもなく。二十度を超える気温の中で大丈夫なのかな、と思ってしまう。マーケットから外にでると、麦わら帽子をかぶったAさんに出会った。彼女も土曜日のお買い物なのだろうか。彼女と少し話した後、僕たちはキガリへ向かった。

 

結構何でも揃うので驚いてしまったキブエのマーケット。物価は驚くほど安い。

 

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