キガリマラソン
疾風のように駆け抜ける先頭ランナー。
僕がルワンダを発つ日の午前中、キガリマラソンがあった。フルマラソン四十二キロと、ハーフマラソン二十一キロのふたつの部があり、スタジアムからスタート、約二十キロのコースをフルは二周、ハーフは一周する。協力隊の隊員さんも何人かハーフの部に参加されるとのことである。スタートはハーフが七時半、フルが七時四十五分とのこと。ハーフはGさんのアパートの直ぐ上の道を通るということで、僕は朝食の後八時過ぎにコースになっている道に向かった。
実はその日、六時からその道を走っていた。そのときに既にマラソンのための交通規制が始まっていた。キガリにいる間、僕はGさんの家から出て一周する八キロのコースを二回ジョギングした。第一回目に走り始めるときに興味があったのは、千五百メートルという標高が、どんな影響を与えるかということだった。空気が薄い分、数パーセントは酸素が少ないはず。でも、実際走り出してみて、空気の薄さはそれほど気にならなかった。それよりも「千の丘の国」の起伏がこたえた。車で走っていると、分からないのだが、自分の足で走ってみると、アップダウンは予想していたより激しい。
「ここで走るのは結構足に来る。」
僕はGさんに言った。キガリにはバイクタクシーの他に、自転車タクシーというのもある。しかし、後ろに人を乗せて、この起伏のある場所を自転車で走るという仕事は想像を絶する。気持ちの良いのは、気温が低いこと。前にも述べたが、ルワンダは赤道のほぼ真下だが、標高が高いので、少なくとも五月は日本に比べても気温が低い。朝早いと、十五度から十六度というところ。走っていても、涼しくて、とても気持ちが良い。
目の前を選手が通り過ぎていく。
「カモン!キープ・オン・ゴーイング!」
拍手をしながらランナーに声援を送る。そんなことをしているのは、見渡す限り僕独り。でも、走る側になってみると、沿道の声援というのは、声援している人が思っている以上に、嬉しいものなのだ。何十年もの間に、何百回というレースを走った僕が言っているのだから間違いない。日本で行われた福岡国際マラソンで三位になった大迫選手も、最近日本記録を出した設楽選手も、
「最後は沿道の声援に後押しされて走りました。」
と同じことをインタビューで語っていた。彼らのようなトップランナーでも、沿道の声援は、力を与えてくれるものなのだ。それを知っているから、ついつい声援にも力が入る。
「行け!頑張れ!」
と声を掛けると、多くのランナーが手を振り返してくれる。また何人ものランナーとハイタッチをした。ランナーの九割以上が黒人だが、白人のランナーも少しおり、アジア人のランナーも数人いた。後でGさんに聞いたのだが、その数人は、皆協力隊の隊員さんだった。ケニアとかエチオピアの選手が陸上競技長距離界を牛耳っているが、よく似た条件のルワンダの選手も、システマティックなトレーニングをすれが強くなれると思う。そのうち歩いている人が多くなり、
「もうすぐ水があるし、坂の頂上だ。」
と声を掛ける。そのうち、パトカーが先導するフルマラソンの先頭グループが通過した。もう二周目。ケニアの選手だろうか。飛ぶように駆け抜けて行った。僕は呆れて言った。
「あの人たちは人間じゃない。」
涼しいと言っても、太陽が真上から照る国では、給水は大切。