ぬかるみの人生

 

キリンの親子に遭遇。母親は子供に何か耳打ちをしていた。

 

午後六時ごろにロッジへ戻る。辺りはすっかり暗くなっていた。国立公園内の宿泊施設はここしかないようだ。広々として、清潔なホテル。宿泊客は僕たちも含めて四グループだけ。夕食の後、明朝七時の出発に備えて早めにベッドに入る。

部屋の前でバブーンの出迎えを受けた翌朝、カーテンを開けて湖を見ると、積乱雲の下に雨のカーテンが垂れ下がっており、それが近づいてくるのが見えた。間もなく、辺りはバケツを引っくり返したような豪雨になり、それが一時間あまり続いた。七時に、ホテルで作ってもらった弁当を持って、エマヌエルさんの車で出発する頃には、雨は少し小止みになっていた。 

その日、僕は四輪駆動車、日本の誇る「トヨタ・ランドクルーザー」の威力が発揮された。激しい雨で、道路は川と化し、あるいは池と化し、田植えの前の田んぼのような場所もあった。車が良いのと、運転手の腕がよいのが相まって、

「もうあかん!」

と思うような難所を巧みに通り抜けていく。雨の後で、ガスがかかっている。霧の中からシマウマやインパラが現れるのは幻想的な光景だった。雨季の今頃は、サバンナの中にいくつもの池が出来ているが、乾季になるとそれらは干上がってしまう。動物たちは水を求めて動かないといけない。

「ゾウは毎日二百リッター(一升瓶二百本以上の)水を飲みます。」

とエマヌエルさんは言う。近くに湖があるからそこで飲めばよいと思うのだが、そうは行かない。湖にはワニがいて獲物を待ち構えているのだ。

「動物たちはそれを知っていて、子供でも湖には近づきませんよ。」

とエマヌエルさんが言った。 

キリンの親子を見て、ゾウも見て、車酔いをする人ならば確実に十回は吐いているような道を六時間。午後一時に僕たちは北ゲートに着いた。昨日は南ゲートから入り、ロッジも南ゲートの傍にある。五十キロほどの距離を六時間要して北上してきたことになる。妻も僕も満足していた。ライオンは見られなかったけど。そもそも、ライオンは広大な国立公園に二十七頭しかおらず、十回来て一度もライオンに会えなかった人もいるという。ちなみにライオンは一度この地区では絶滅して、現在の種は南アフリカから移植されたものであるという。ライオンがいないと、シマウマなんかの草食動物は、天敵がいないので増えすぎるわけで、ライオンが草食動物の数をコントロールしているわけだ。北ゲートホテルで作ってもらった弁当を食べる。ゲートを潜って外に出ると、今度は牛がいた。国立公園は、電流の流れている柵で囲まれており、野生動物が国立公園の外に逃げ出したり、牛や山羊が国立公園の中に迷い込まないようになっている。

国立公園を出た僕たちはキガリへ向かう。道中、運転手でガイドのエマヌエルさんは色々とルワンダでの生活について質問をした。それがなかなか面白かった。エマヌエルさんは何と、イングランドのサッカーチーム「アーセナル」のファンだという。

「今シーズンはダメでしたね。」

「アーセン・ヴェンガー監督はおそらくクビになっちゃうでしょうね。」

そんな話をルワンダでするとは思っていなかった。

 

シマウマの次によく見たインパラ。均整の取れた美しい姿をした動物だ。

 

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