エチオピア料理
ルワンダ大統領のポール・カガメ、2000年以来の超長期政権であり、まだ続くことが予想されている。
「『フツ』とか『ツチ』という言葉は、公共の会話の中で使ってはいけないことになっているから注意してね。」
と、エチオピア料理店で食事を待っているときにGさんが言った。そこは、簡単な屋根はあるが、吹きさらしで、屋外のレストランと言ってよい。
「『壁土』とか『赤土』っていうのも駄目なのね。」
政府の「公式見解」では虐殺が収まって平和が戻った後、『フツ』と『ツチ』という概念は、それまでの為政者が勝手にこしらえたもので、本当は存在しない、というのが公式見解になっている。でも、隣国のブルンディなんなでは、まだその概念があり、議員の数などが、その部族に振り分けられている。不思議なことだが。ともかく、現在はそういう風に収まっているわけだ。そして、今ルワンダは「アフリカの奇跡」と呼ばれるほど、近隣諸国に抜き出た経済成長を遂げている。
「実際、ルワンダの人は僕のオフィスでも良く働くよね。元々緑が豊かで農業が盛ん、努力すれば、工夫すれば報われるという文化があって、それがルワンダ人に勤勉さを与え、今の発展を支えているんだろうね。」
というのがGさんの意見だった。
料理が出てきた。インジェラという、エチオピアでは有名な料理とのこと。直径三十センチくらいの平たい皿に薄いパンケーキが敷いてあり、その周囲に十種類くらいの料理が円形に盛られている。敷いてあるのとは別に、籠に入ったパンケーキがもらえ、そのケーキで、料理をすくって、包んで食べるのである。インド料理で、チャパティやナンで、カレーを摘んで食べる、そんなイメージだと考えていただければよい。ひとつひとつの料理は掌に一杯もないほどの量だが、十種類近くあるので結構お腹が膨れた。パンケーキには、ちょっと酸味があって、具には香辛料が効いていて、なかなかいける。色々な味が楽しめるのが嬉しい。
「エチオピアには『ティーセレモニー』に似た、『コーヒーセレモニー』があるんだけど知ってた?」
「知らない。」
「エチオピアでは、客をもてなすとき、客の前で先ずコーヒー豆を煎り、それを挽いて、それでコーヒーを入れて客に出すんだ。」
「それって、時間がかかるだけに、心がこもるよね。」
「そう、なかなかいいもんだ。ここの店、そのセレモニーをする場所があるんだけど、この前コーヒーを頼んだらごく普通のコーヒーが出てきて、ちょっとがっかり。」
確かに、その店の一角には色々な器の並んだ一メートル四方くらいの場所があった。でも、使われてはいないようであった。ルワンダ最初の食事は、エチオピア料理であった。
鳥の鳴き声で目を覚ます。僕はダブルベッドの上に張られた蚊帳の中で寝ていた。時計を見ると五時。まだ暗い。六時間ほどであるが、かなりグッスリと眠った。英国の家でも、朝、鳥の声が聞こえてくるが、アフリカの鳥の鳴き声は、ヨーロッパのそれとかなり違う。なにしろ声がでかい。蚊帳の中で眠るのは久しぶり。マラリヤや黄熱病など蚊によって媒介される病気があるアフリカでは、蚊帳は必需品である。間もなく鳥の声が聞こえなくなったと思ったら、雨の音が聞こえた。
エチオピア料理店のコーヒーセレモニーをする一角。コーヒーを頼んだら別の場所で作って出てきた。