横断歩道は何のため?
丘の上に立つキガリの中心街、近代的なビルが並んでいるが、足元は意外に庶民的。
「ルワンダでは何のために横断歩道があるのか。」
僕は考え込んでしまった。横断歩道の脇に立っていても、車は絶対に停まってくれない。特に減速する様子もなく、走り抜けていく。車の切れ目を慎重に読んで、安全を確認して道路を渡るしかない。首都のキガリは結構車が多いので大変。
「横断歩道は、もし道を渡っていて車に跳ねられて怪我をしたとき、一応横断歩道だったんだからということで、ちょっと余分に保証金が取れるところ。」
くらいの意味しかないようだ。ロンドンのようにゴミは落ちていないし、落書きもない。整然とした印象を受けるキガリの街だが、車の運転のマナーだけはいただけない。
ルワンダに着いた翌朝、七時過ぎに仕事に出かけるGさんの運転でアパートを出る。彼のオフィスの前で降ろしてもらい、そこから街の中心部へ向かって歩き始める。そこで初めて、ルワンダでの横断歩道の意味、あるいは無意味について学ぶ。午前八時に開く銀行があったので、そこで持ってきた米ドルをルワンダの通貨、ルワンダフランに換える。これで一安心。現地のお金があるので、バスにもタクシーにも乗れる。僕は、娘や日本の知り合いに、絵葉書を出したいと思っていた。それで、街の中心部なら、土産物店があると思い。中心部へ向かうことにする。バス停に行く。
「ガーン、行き先も時間も何〜んにも書いてない。」
これじゃあちょっと無理。僕は、「モト」、つまりバイクタクシーを捕まえる。朝の通勤時間ということで、お客を後ろに乗せたバイクタクシーが横を次々と通り過ぎていく。空いているモトを停めて、
「ムムジ(タウン)まで幾ら?」
と聞くと、八百フランだという。百円しない。後ろのお客もヘルメットを被る義務があるらしく、僕も帽子の上からヘルメットを被る。運転手のお兄ちゃんにしっかりつかまり、バイクは走り出す。横を、OL風のお姉さんを乗せたモトが走っている。彼女は、白いブラウスに、黒いタイトスカート。足をカパッと開いてバイクに跨っている。僕は独り言。
「大胆不敵、いや、太股素敵。」
僕はTシャツ一枚だったが、バイクに乗ると結構寒い。まだ八時半、キガリは赤道のほぼ真下とは言うものの、標高千五百メートルの場所にあるので涼しいのだ。ルワンダは「千の丘の国」として知られているが、キガリの街も、幾つかの丘とその間の谷から成り立っている。
僕は、一番高い丘の上に、一際高いビルの立っているタウンで、モトを降りた。
「絵葉書売ってない!」
「旅行者がいない!」
首都の中心いうことで、「こじゃれたカフェ」や「土産物屋」など、少しは観光客を意識した店があるかた思っていたのだが。何にもない。並んでいるのは、携帯電話の店ばかり。どこの国でも首都へ行くと、バックパッカーの若者が数人はいるものなのだが、それも見つからない。見渡す限り観光客と思しき人間は僕ひとり。
「ルワンダへ観光で来る人は殆どいないんだ。」
僕はそのとき悟ったのである。
これが庶民の足、バイクタクシー「モト」。後ろに乗りながら携帯を操作するという達人もいる。