水煙草
セルビスに乗り込むS隊員。四人乗って初めて発車する。
話題は、S隊員がコーチをする、パレスティナ人の少年サッカーチームの話になった。僕の息子も十歳くらいから、ずっと少年サッカーをやっていたので、興味がある。
「本来なら、政府や国連から援助が出ているし、チームの財政はもっと豊かであっていいと思うのですけど、誰かがポケットに入れてしまうのか、いつもチームは金に困っているんです。」
と彼はちょっと不満そうに言った。
彼はワヒダットに来る前、一年間ジェラシュの難民キャンプの学校で働いていた。観光案内書によると、ジェラシュには保存状態の良い、ローマ時代の遺跡があるという。
「ジェラシュの遺跡、今ちょうど黄色い花が咲き乱れてきれいですよ。それほど遠くないし、モトさん、今から行かれたらどうですか。」
とS隊員は勧めてくれる。しかし、ジェラシュには今回は行かないことにする。今回全部主要な場所を回ってしまったら、次回もし妻と来たとき、面白くないもの。何か少しは、やり尽くさないで、次回のために残しておくことにする。
S隊員は、G君と同じ方向に住んでいるというので、一緒に帰ることにする。「セルビス」というタクシーを初めて使うことになる。セルビスというのは決まった路線を走っている「乗り合いタクシー」。普通のタクシーが黄色のところ、セルビスは白い色をしている。そのような物があり、それに乗れば安いことも知っていたのだが、何せアラビア語で書かれた行き先が読めないので、これまで使いようがなかったのだ。
ダウンタウンでS隊員とセルビスに乗り込む。お客が四人になったところで、車は発車した。この乗り合いタクシー、路線の中ではどこで降りてもいいことになっているらしい。一回五十円前後と、普通のタクシーに比べると格段にお得。
この前G君と行ったショッピングモールの前で、S隊員と別れる。
「もし『世界一周旅行』の途中英国に来ることがあったら、ぜひ寄ってね。」
と僕が言うと、
「もちろん、ぜひ寄らせてもらいます。」
と言って彼は去って行った。
まだ夕方まで時間があるので、喫茶店に立ち寄る。英国ではレストラン、パブ、カフェは全て禁煙だが、ヨルダンでは、皆「水煙草」をプカプカやっている。いや、それどころか、「水煙草・ハブル・バブル」を吸うために喫茶店へ来ているみたい。僕の娘くらいの、つまり二十歳前後の女性までが、水タバコのチューブを口にくわえてプカプカやっている。水タバコの煙は一度水の中を通っているせいか、普通の紙巻タバコの煙ほど刺激的でないのでまだ助かる。
喫茶店の窓から道行く女性を観察していると、頭の先から足の先まで黒い布で覆い目だけ出している女性から、Tシャツとジーンズの女性まで、実に幅広い。ヨルダンはアラブ社会ではリベラルな国なのだ。これがサウジアラビアなどになると、女性はとても西洋人と同じ格好で外に出られないらしい。
喫茶店では老いも若きも、男性も女性も、水煙草をプカプカやっている。