ヨルダンの千枚漬け
チョコレートケーキのようなワヒダットのモスク。
「こちらの学校って、男女別なんですか。」
とS隊員に聞いてみる。
「男女は建物も完全に分かれています。」
とのこと。キャンプ内を歩いている女子生徒は、長袖シャツにジーンズの子もいるが、皆頭に白い布、ヒジャーブを被っている。
正午になり、キャンプ内のモスクからアザーンが鳴り響く。
「アザーンを聞いていると、心が落ち着きませんか?」
とS隊員に水を向けると、
「いやあ、ぞっとします。」
とのことだった。
話題はS隊員自身のことになる。彼は僕の息子と同じ年齢だった。
「僕は小学生の頃からサッカー一筋で、一時Jリーガーを目指していたんですよね。大学を卒業して教職に就く前に、自分の『視野』を広げたくて、協力隊に応募したんです。」
と彼は言う。
「それで、視野は広がりましたか?」
と僕が聞くと、
「確かに広がったんですが、まだ物足りないような気がして。任期が終了したら、世界一周旅行をしてみたくなりました。」
彼はそう言った。そんな風にして、健全な若者が、僕のような「旅人」なっていくのだと思う。
S隊員は、協力隊のメンバーが撮った写真の展覧会の会場へ僕を連れて行ってくれた。彼自身の写真も何枚か飾ってあった。題材はもちろん「ヨルダンの人々と風物」、皆結構良い写真を撮っている。
その会場の向かいのモスクは、ヨルダンで見た数多くのモスクの中で一番美しかった。こげ茶色と白のモザイクのような造り。チョコレートケーキのよう。スプーンですくって食べてしまいたくなるような建物だった。
ふたりで坂を降りてダウンタウンに向かう。ちょうど古着市の前に出て、その近くの「カイロ」というレストランで昼食をとる。メニューはヨルダン名物の「マンサフ」。サフランで色と香りのついたご飯の上に、柔らかく煮た鶏肉か羊肉が乗っており、それにヨーグルトの味のするスープをかけて食べる。チーズの好きな人にはお奨めのメニューだ。ちなみに僕はチーズが好きである。
テーブルの上に置いてある、青唐辛子はピリッと辛くて、赤カブの薄切りは京都の千枚漬のようで、口がすっきりする。日本を遠く離れた場所で、日本を思い出す味に出会うことがあるのは面白い。
これがマンサフ。テーブルの中央に赤カブの漬物が見える。