一夫多妻の実情
展望台から「奥の院、エド・ディル」を望む。
三時過ぎ、ワリードさんの運転で砂漠の道をアンマンへ向かって走り出す。お疲れのG君は眠っている時間が多かったので、車内ではもっぱらワリードさんと僕の会話になる。
「ヨルダンで盛んなスポーツって何ですか?」
と僕が聞く。
「何と言ってもサッカー、それとバスケットボールかな。そう言えば、この前、アジア杯で、ヨルダンと日本が対戦して、ヨルダンが最後の最後まで勝っていながら、結局引き分けたの、知ってます?」
と彼が聞く。
「そうそう、最後の一分で日本が同点に追い付いたんでしたっけ。」
「あれは、あなた方にはラッキーでしたでしょうが、我々には本当に残念でした。」
彼は本当に残念そうに言った。
「でも、ヨルダンのチームはすごいですよ。優勝した日本と互角に戦ったんですから。」
と余裕でエールを送っておく。
車が僕の降りた「クイーン・アリア空港」の横を通る。
「『クイーン・アリア』って誰なんですか?」
と僕がワリードさんに聞く。
「現在の国王の亡くなった父親、フセイン前国王の『三番目の奥さん』です。」
僕はそのとき、ヨルダンが一夫多妻を認めている国であることを思い出した。
「奥さんは何人もらってもいいんですか?」
と聞くと、
「最高四人です。」
とワリードさん。僕は満を持して彼に質問した。
「で、ワリードさん、あなたは何人お持ち?」
彼は真面目な顔で言った。
「四人です。寝るときは、右側にベッドをふたつ、左側にベッドをふたつ、四人に囲まれて寝るんです。相手をするのに結構疲れます。」
その後、彼はニヤリとして言った。
「冗談ですよ。奥さんがふたりいても、実際は二軒の家に別れて住まわせなければならい。お金持ちじゃないと、そんなことはできません。私の妻はひとりだけです。」
午後六時前にアンマンに戻る。ペトラを舞台にした小説がある。推理小説の大御所、アガサ・クリスティーの書いた「死との約束」だ。僕はG君への土産に、英語で書かれたその本と映画化されたDVDを持って来ていた。アガサ・クリスティーは、中東を旅行している。その時の体験を基に、この「死との約束」や「メソポタミア殺人事件」、「ナイルに死す」、「オリエント急行の殺人」など、中東を舞台にした作品が書かれている。
車窓から。砂漠に夕日が沈んで行く。