警察でのお茶のサービス
ヨルダンの警官、先にトンガリの付いた面白い帽子をかぶっている。
僕は中に招き入れられ、椅子を勧められた。若い英語のできる警官が僕に紙を渡して、名前、連絡先、財布を失くした日時と場所、中に入っていた物等を書けという。その通りにする。そのうちに彼の同僚が集まりだして、ワイワイやりだした。会話がアラビア語なので理解はできない。そのうち五、六人が僕ひとりを相手にするという様相になってきた。基本的に皆暇らしい。しかし、警察が暇というのは悪いことではない。
しばらくして、彼等の上司と思しき中年の警官がやってきた。彼が、若い警官の説明を聞きながら、書類に書き込んでいく。もちろん、アラビア語で、右から左に。
「名前は?」
「カワイです。」
その名前が、アラビア語で書かれていくのを見るのは面白い。
「こちらでの滞在先は?」
「友人の家です。」
「お友達の名前は?」
「オサムです。」
中年の警官はペンを止めて言った。
「彼は、ヨルダン人かね?」
そう言えば、良く似た名前で、有名なアラブ人がいる。
いちいち通訳が入るので、調書の作成にやたら時間がかかる。そのうち「お茶」の時間になったらしく「使い走り」の少年がやってきて、警官たちに何を飲むのか聞いている。彼は当然のことのように、僕の前にやってきて、
「何飲む?」
と尋ねた。
「シャイ(お茶)。」
と言うと、一分後、彼は僕にも茶を持ってきた。たっぷり砂糖が入り、ミントの葉が浮んだ茶。僕はそれを飲みながら、何となく満ち足りた気分になった。財布を失くして警察に来て、「満ち足りた」気分になるというのも、何ともおかしな話だが。
結局一時間半近く、観光案内所で警官達と一緒にいた。別の警官が入ってくると、男同士でも、頬をくっつけてキスをするのだ。これがアラブの習慣らしい。
最後に、調書を作った中年の警官が、
「日本の様子はどうかね。」
と聞いてくる。地震と津波による死者が、二万人を超えそうだと伝える。
「それは大変残念なことだ。心からお悔やみを申し上げる。」
と彼は訛りはあるけれど、格調の高い英語で言った。彼らと別れた後、僕は、ヨルダンの人々が基本的に大変親切であることに改めて気が付いた。
ダウンタウンの民族衣装の店。アラビアンナイトのシェヘラザードが着ていたような服。