究極の打たせ湯
温泉の滝、ハママート・マイン。湯は四十度以上あり、結構熱い。
岸に上がると、波打ち際に座り、身体に泥を塗りたくっているヨルダン人の親爺がいた。
「あんたも塗れ。」
と言って、そのおっちゃんは僕の背中に泥を塗りだした。これまで、「顔に泥を塗られた」ことは何度かあるが、「身体に泥を塗られた」のはこれが初めて。
「健康と美容に良い。」
と、親爺は言う。身体中に泥を塗られた後、
「そのまま乾くまで待て。」
という指示。しばらくして、泥が乾いてくるにしたがって、皮膚が締め付けられるような感触がしてきた。なるほど、これは効きそう、なかなか身体に良さそう。昨日のトルコ風呂と言い、今日の全身泥パックと言い、ヨルダンでお肌に良いことばかりやっている。
乾いた泥を水の中で洗い落とす。女性も水に入っているが、ヨルダンの女性は服を着たまま、観光客の女性は申し訳程度のビキニ。その余りのギャップの大きさに戸惑ってしまう。
「アンマン・ビーチ・リゾート」のレストランで食事をした後、次は「ハママート・マイン」つまり、「マイン温泉」へと向かう。そこには「温泉の滝」があるという。車は死海の岸を離れ、急勾配を喘ぎながら登って行く。もう辺りには木も草もない。ゴツゴツとした岩肌が広がっているばかり。聖書を読むと、「荒れ野」という言葉が頻繁に出てくる。
「なるほど、こんなイメージだったんだ。イエスも、そしてアラビアのロレンスも、このような風景の中を歩いていたんだ。」
改めて納得する。これから聖書を読んでも、別のイメージが湧いてくることだろう。
マイン温泉、一口で言うと、そこは「究極の打たせ湯」であった。日本の温泉では、上から落ちてくるお湯を首や肩に当てて、マッサージ効果を得ようとする「打たせ湯」が作られ、それなりに人気がある。滝に打たれているような気分で、お湯を浴びているおっちゃん達が沢山いる。ここは文字通り「滝に打たれる」場所なのだ。
「打たせ湯」の場合、せいぜい二メートルくらいの高さから湯が落ちてくるのだが、このマイン温泉では、十数メートルの高さから、大量の湯が落ちてくる。滝壺でまともに当ると、潰されそうになる。四十肩は治っても、打撲傷が残りそう。
ここでも、女性は服を着たまま温泉に入っている。湯から上がって、G君と僕が駐車場の方に向かって歩いていると、数人のおばさんが服からポタポタと雫を垂らしながら前を歩いている。
「よっ、水も滴る良い女!」
と叫びたくなる。
「あんな格好で、どうやって車に乗るんやろ。」
「さあ。」
G君と僕は顔を見合わせた。
服を着たまま温泉の滝に打たれる女性。