浮くしかない場所、死海
死海でプカプカを楽しむG君。
ガイドが向こう岸の少し緑の見える場所を指差して、
「あそこがエリコの町です。」
と言った。エリコは世界で一番古い町とも言われ、旧約聖書の「脱エジプト紀」、「ヨシュア紀」の中に登場する。モーゼに率いられエジプトを出発したユダヤ人達は紅海を渡り、「約束の地」、カナン(現在のパレスティナ)に達する。しかし、そこは先住民がいた。
「かなんなあ。」
と思ったモーゼの後継者である預言者ヨシュアは、先住民と戦いエリコの町を占領する。彼は、そのときエリコに住んでいた住民を、女子供に至るまで虐殺したそうだ。無茶するなよ。
エルサレムや、イエスの生まれたとされるベツレヘムも、もう目と鼻の先だ。キリスト教徒でない僕にさえ、聖書に描かれたその舞台に自分がいると思うと、それなりの感慨が湧いてくる。
十一時半ごろ、「洗礼地」を離れていよいよ死海へ向かう。道路脇の空き地にテントを張っている人たちがいる。
「ベドウィンだ。」
とハッサン君が言う。ベドウィンとはアラブの遊牧民である。テントの周りには、ヤギやヒツジが群れている。ラクダも見える。
死海が右側に見えてくる。ここは世界で一番低い場所。「アンマン・ビーチ」というリゾート施設の前で車を停め、金を払って中に入る。中にはブール、レストランなどがあり、死海の岸に下りられるようになっていた。ここは公営の施設だという。
更衣室で着替えて、浜に下りてみる。波打ち際、足元は塩がこびりついた石で、裸足で歩くと足の裏が痛い。「波打ち際」と書いたが、鏡のような水面、池の畔にいるようなもので、波は打っていない。
水の中に足を浸ける。ちょっとドロットして、薄い葛湯の中に足を踏み入れたような気分。思い切って身体を浸してみる。
「わあ、泳げへん。」
本能的に泳ごうとする。しかし、泳ごうとしても、足や手が水面から出て空を切ってしまうのだ。ジタバタしてはダメ。ここではプカプカ浮いていることしかできないのだ。
今まで、死海の水については色々な人から聞き、色々な文章を読んだ。知ってはいても、なかなかセンセーショナルな体験だ。G君もフサム君も隣でプカプカ浮いている。これもよく言われることだが、口の周りについた水滴をなめると、辛いのを通り越して苦い。
「眼に入ったら大変だから、気をつけろ。」
と横でハッサン君が言った。
何故死海の塩分がとんでもなく濃いかということに対して、死海の水はどこにも流れ出さないのと、辺りが乾燥した気温なので、水分がどんどん蒸発して、塩分だけが残ったと説明されている。
地元の親爺さんと一緒に全身泥パック。