現代版水戸黄門

 

屋根の上にある白い箱が水タンク。アンマンでは水は配給制。

 

王様の話は続く。G君によると、この王様、アブドラー二世は、ときどきタクシーの運転手や老人に「変装」して街に現れ、国民の様子を探っているらしい。何だか「水戸黄門」のような人だ。ただ、変装は余り上手でないらしく、前回老人に身をやつして病院に現れたときには、簡単に見破られてしまったとのこと。何でも、葵の紋の入った印籠を見せてしまったそうだ。(嘘です。)

朝食の後、テレビのニュースで日本の津波被害と原発の様子を見る。テレビ局は、オサマ・ビン・ラーデンやアルカイダからのメッセージを流したことで有名な「アル・ジャジーラ」。英語放送があるのが嬉しい。特派員が日本からレポートをしていた。津波から逃げる人が携帯で撮ったビデオが映されている。生々しく、心が痛む。

 ふたりでベランダに出てアンマンの街を眺めていると、

「アンマン市内には水道管は通ってへんて知ってる?」

と突然G君が言った。

「では、水道をひねると出てくる水はどこから?」

と考えてしまう。G君は周囲の家を指差した。G君の部屋は四階なので、周囲の家の屋根が見下ろせる。

「家の屋根に必ず四角いタンクが置いてあるやろ。あれが水タンク。一ヶ月に二度ほど水を配達する車が来るねん。それを炊事や洗濯に使うわけ。次の配給までにタンクの水を使い切ってしもうたら、高い金を払ってまた水を買わんといかんらしい。」

なるほど。水資源が限られているこの国では、水は配給制なのだ。そして、蛇口から出る水は、屋根のタンクから来ていたのだ。

G君のアパートの横、雑草の生えた空地には、ヤギ飼いが訪れていた。二十匹ほどの大小のヤギが、草を食んでいる。乾燥したこの国では、雑草と言えども大切な資源、有効に使われなければならないということだろう。

事務所に用事があるというG君をアパートに残し、午前十一時頃、独りでタクシーに乗って、ダウンタウンに向かう。黄色いタクシーは市民の足、数多く走っている。だから、表通りにさえ出てしまえば、全く待つ必要がない。初乗りが三十円程度と安く、アンマン市内では便利な乗り物だ。

十五分ほど走りダウンタウンに近づくにつれ、警官がやたら沢山道を歩いているが見える。そのうち、白バイが、車道を塞ぐように停まっていた。

「今日はここまでしか行けない。ここで降りて歩いてくれるかい。」

と運転手が英語で言う。僕はタクシーを降りて、多くの人が向かっているのと同じ方向に歩いて行った。人々と警官の数も密度も益々増えていく。大通りの交通は完全に遮断されて、歩行者天国のようになっている。今日は何か特別な行事でもあるのかな、僕はそう思いながら、人波と一緒に進んだ。

 

アパートの横で草を食むヤギとヒツジ。ついでに庭木の葉も食っていた。

 

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