金曜日が日曜日
街の看板はアラビア語と英語が混ざっている。黄色い車はタクシー。
三月十八日、金曜日。六時ごろに目が覚める。五時間眠ったことになる。英国ではまだ四時だが、それは考えないことにする。七時ごろに起き出してリビングルームに行く。早起きのG君はもう起きていた。イスラムの国では、「金曜日が日曜日」になる。つまり金曜日は安息日。G君も今日はお休み。
朝食のパンを買うためと、僕が辺りの様子を知るために、ふたりで散歩に出る。金曜日ということで、ほとんどの店は閉まっている。十分ほど歩いて、彼の働くJICA事務所の前まで来る。辺りは結構近代的な街並みで、ロンドンと変わらないようなモダンな店が並んでいる。休日の早朝ということで人通りはほとんどない。開いていたパン屋でパンを買う。ヨルダンのパンは薄くて平たい形のものが多い。齧るとフワッというより、カリッという歯応えが返ってきそうだ。
アパートに戻り、買ってきたパンと茶で朝食を取る。G君は紅茶にセージやタイムなどのハーブを入れる。これが、いかにも「アラビア風」で、ヨルダンの薄くてカリッとしたパンに良く合う。
今回の僕のヨルダン滞在は、木曜日から、翌週の木曜日までの一週間。朝食を取りながら、その間の予定をG君と確認する。
● 金曜日:そのへんをブラブラ
● 土曜日:死海へドライブ
● 日曜日:そのへんをブラブラ
● 月曜日:隊員さんたちと夕食会
● 火曜日:ペトラへドライブ
● 水曜日:そのへんをブラブラ
● 木曜日:アンマンを発ちロンドンへ
というもの。「そのへんをブラブラ」が結構多い。しかし、これで「怠惰な旅行者」を自認する僕にはちょうどよい日程なのだ。
同じく朝食の席で、「ハシミテ」と言うのはどんな意味かG君に聞いてみる。ヨルダンは正式には「ヨルダン・ハシミテ王国」と言うのだ。昨日パスポートに押された入国印にもそう書かれていた。
「橋見て。」
なんだか、レインボーブリッジを前にした親子の会話みたいだが。G君によると、国王の家系の名前だそうだ。現在の王家は「ハシムの子孫」、それで「ハシミテ」なのだそうである。今朝、街を三十分ほど散歩しただけで、街角に掲げられた国王、「アブドラー二世」の肖像画を最低十回は見た。その頻度、密度たるや、英国におけるエリザベス女王の顔の比ではない。それだけヨルダン国王は、国民に人気があり、尊敬されているということなのだろうか。
街のあちこちに現国王、アブドラー二世の肖像画が掲げられている。