メッカはどっち?
清潔でなかなか好感の持てるロイヤル・ヨルダン航空の機内。
午後四時発、アンマンまで直行するロイヤル・ヨルダン航空一一二便に乗り込む。比較的小さな「エアバス三二〇」ながら、座席の前には液晶テレビが付いていた。その画面で、「英国王のスピーチ」を見る。今年のアカデミー賞を取ったこの映画、実は二週間ほど前、一度ロンドンの映画館で見た。しかし、稀に見る名作なので、もう一度見てみようと思ったのだ。映画館で、終わった後、拍手をしている人がいたのは、この映画くらいかな。
機内は清潔でなかなか感じが良い。「ロイヤル」と言うことで、垂直尾翼と主翼の先のウィングレットには王冠が描かれている。映画を見終わった後、画面を「フライト情報」に切り替える。飛行機はブカレスト、ソフィア、イスタンブールの上空を通過して行く。五分に一度ほど、飛行機の進行方向とメッカの方向を示す画面が出る。回教国の航空会社では、
「メッカは今どちらの方角ですよ。」
という表示が出ることを、僕は前回クウェート航空に乗ったときに知った。しかし、何のために?乗客が機内でお祈りを始めるわけではない。第一、そんな場所は機内にないもの。
飛行機は午後十一時にアンマンの「クイーン・アリア空港」に着陸。英国とヨルダンの間には二時間の時差があるので、英国時間では九時、まだそれほど眠くない。ちょうど五時間の飛行だった。アンマンは砂漠の真ん中かと想像していたのだが、着陸するとき結構沢山の灯りが周囲に見えたので、意外に思う。
ヴィザの取得に列に外国人が並んでいるので、僕もそこに並ぶ。しかし、前に並んでいた男性が、
「あんた、日本人ならヴィザは要らないはずだよ。」
と言う。それで直接入国審査に行く。顔写真と右手親指の指紋を取られた後、入国オーケーになった。飛行機の案内では気温が十二度とのこと。「寒い国」から来た僕にとって、柔らかい風が心地よい。
金を英国ポンドからヨルダン・ディナール(JD)に換える。百ポンドがほぼ百JDになったので、換算レートはほぼ一対一らしい。これは計算に便利。外に出ると十一時半前、アンマン市内行きのバスは午前零時までない。タクシーの運転手が声を掛けてきて、G君の住む「セブンス・サークル」まで十五JDで行くというので、それに乗る。後で気付いたのだが、白タクだった。
午前零時過ぎ、G君のアパートの前に到着。彼から地図とアパートの写真を貰っていたので、非常に分かり易い。携帯で電話をすると、G君が降りてきた。
「おう、よう来たな。」
「また世話になる。」
再会を喜び合い、少し話した後、午前一時には眠る。彼のアパートは広い。床は白い大理石だ。寝室が三つ並んでいるが、真ん中の寝室を僕が使うことになった。
画面に映し出されるメッカの方向。黄色い三角形がそれで、現在は進行方向のやや右側。