金曜日は厄日?
デュッセルドルフ空港の寿司バー。珍しがって食べているのは外人さんだけ。
「今、どんな気分だい?」
スーパーマーケットに寄り、家族への土産のソーセージを買った後、空港へ向かう車の中でデートレフが聞いてきた。
「英国に帰りたいような、ドイツにもっといたいような、嬉しいような、残念なような変な気分。」
と答える。実際、その時の気分は言葉で言い表せないような、複雑なものだった。
六時過ぎにデュッセルドルフ空港に着き、デートレフと別れる。ルフトハンザのチェックインカウンターで荷物を預けた後、寿司バーへ行って寿司を食べる。熱燗も注文する。仕事が終わって、帰りの空港で食べる飯と酒、安堵感もあっていつもながらとても美味しく感じる。たとえ、空港の「寿司バー」の、こう言っては失礼だが、いい加減な寿司でも。
娘のミドリに絵葉書を書いたり、本屋でまた本を買い漁っているうちに七時半になり、搭乗口に向かう。夕方の飛行機は、それまでの小さな遅れが溜まって、結構遅れることが多いのだが、今日はちゃんと飛びそうな気配だ。出発の十五分前に搭乗し、飛行機の座席に座って一息つく。客室乗務員による、誰も見ていない、救命胴衣の付け方の説明が始まった。
出発の時間になった。機長からのアナウンスが入る。
「当機のエンジンに、オイル漏れが見つかりました。代替機を手配いたしますので、それまでゲートでお待ちいただきます。」
僕たち達乗客は降ろされてしまった。
ゲートで待つこと一時間、別の飛行機がやって来て、再び搭乗が始まった。先ほどたっぷり寿司屋で夕飯を食っているから良いものの、空腹で待っていたら、さぞかし辛いだろうなと思う。
「ご迷惑をおかけします。」
ということなのか、二度目の搭乗の際、チョコレートが配られた。チョコレートを口に入れる。普段は甘いものを食わないが、疲れている時は甘いものが美味い。
午後九時過ぎ、飛行機は離陸。一時間後にロンドン、ヒースロー空港に着陸した。しばらくタクシングをして第一ターミナルに着く。飛行機が停止する。しかし、エンジンをかけたまま。ドアが開く気配がない。また機長からアナウンス。
「前方を故障した車両が塞いでおります。その車両が撤去されるまでしばらくお待ち下さい。」
「今日は厄日かいな。」
僕は呟いた。十五分後、ロンドン時間の十時少し前、僕はやっと飛行機を降りた。迎えの車に乗って家に着くと、もう十一時半。ドイツでは午前零時半。疲れ過ぎていたのか、布団に入った僕はそれからしばらく眠れなかった。
二週間の旅が終わった。少しホッとする。