ドイツ土産
いつも食事をしていたホテルのレストラン。
最後の夜だが、これから外にでるのも億劫になってきた。その日もホテルのレストランで夕食を済ませることにする。
まだ六時だが、ホテルのレストランに行く。僕の他に客はいない。僕は独りでレストランに行くとき、いつも本を持って行く。そして、注文して料理が出てくる間、本を読んでいるのだ。今回はスウェーデンの作家、ホカン・ネッサーの本を持ってきていた。
ウェートレスのお姉さんがテーブルの上にあるその本を見て、
「ホカン・ネッサーって、面白いですか。」
と聞いてくる。僕は彼女がスウェーデン人の名前を、きちんと「ホカン」と発音できたのに驚いた。「A」の上に小さなお団子が乗っているのを、「ア」ではなく、「オ」と発音することを知っている人はそんなにいないと思う。さすが高級レストランのウェートレス、「学」がある。
「あるいは、彼女、スウェーデン人だったりして。」
その日、夕食の後、もう目を開けているのも辛いくらい。八時ごろ部屋に戻りテレビをつける。八時のニュースをやっている。
気がついたら二時。枕元の電灯とテレビをつけたまま眠っていた。それらを消してまた眠る。
金曜日、今日はロンドンへ戻る日。五時半に起きて、例に寄って散歩、補強運動をやる。これで、十一日間一日も休まず体を鍛えたことになる。シャワーを浴びて着替えた後、荷造りをする。大して荷物もない。あちこちで買いまくったドイツ語の本が、鞄の中のインスタントラーメンのあった空間を占めた。キーボードを箱に収める。
大きな荷物を車に積んだ後、朝食、その後チェックアウトをする。と言っても、請求書は全て会社に送ってもらうことになっているので、至って簡単。
その日は五時まで働いて、デートレフに空港まで送ってもらうことになっていた。飛行機は夜八時なので、空港ではたっぷり時間がある。
「ねえ、ちょっとお願いがあるんだけど。」
昼休み、僕はデートレフに言う。
「何だい?」
「今日、空港へ行くとき、スーパーマーケットに寄ってくれない?買いたいものがあるの。ソーセージ。」
「お安い御用だ。」
午後五時、オフィスの皆さんに別れを言って、デートレフの車にスーツケースとキーボードを積み込み、会社を後にする。
「手伝ってくれて有難う。またおいで。」
と別れ際に皆に言われる。
メンヒェングラードバッハで見つけた、イチョウの葉の形の敷石。