驚きのファイル
褐炭露天掘りの巨大な穴。(ランブラウン社ホームページより)
昨日車で走っているときは暗いので分からなかったが、高速道路の南側に巨大な穴が開いている。石炭の露天掘りだ。何キロにも渡って、地面が数百メートルの深さに掘り返されている。「ルール地方の炭鉱地帯」という、中学の地理の時間に習った言葉を思い出す。この露天掘りのために、村が移動させられたり、高速道路が付け替えられているとのことだ。
三十分ほどでロンメルスキルヘンの町に入り、ウリの家に着く。彼女は相変わらずスマートでお洒落だった。(マツコ・デラックスのようなカロラとえらい違い。)とても十八歳の子供の母親とは思えない。そして、その横に、髪の毛の長い、睫毛も長い、彫りの深い顔の格好の良いお兄ちゃんが立っていた。
「ええ、ひょっとして、き、きみが、セバスティアン?」
唖然として、次の言葉がでない。昔の面影は全然ない。彼に会うのはおそらく八年ぶりくらい。全く別人二十八号の、エレガントなイケメンのお兄さんになっていた。
セバスティアンが家の中を案内してくれる。ヨハンの家でもそうだったが、初めて自分の家を訪れる客には、寝室からトイレ、物置に至るまで、見せて回るのがドイツの慣習らしい。セバスティアンの部屋には、僕が持ってきたのと同じタイプのキーボードが置いてあった。
「なあんだ、きみもキーボードを弾くんだ。」
わざわざ持ってくる必要はなかったのね。
セバスティアンが、一冊のファイルを持ってきて僕に渡す。何だろうと思って開けてみて、僕は思わず泣きそうになった。そこには僕が世界各地から彼に送った絵葉書、クリスマスカード、そのクリスマスカードに毎年添えていた「我が家の十大ニュース」のレターがきちんと整理され保存されていた。
僕はこれまだ何気なく、彼に絵葉書を書いていた。しかし、彼がこれほど喜んでくれて、大切にしてくれているとは夢にも思わなかった。本当に、涙の出るくらい、嬉しい出来事だった。こんな嬉しいことは、ここ数年なかったような気がする。
夕食の準備が出来るまで、セバスティアンと僕が代わる代わるキーボードで曲を弾く。カロラと隣の台所で聴いているウリが、一曲終わるたびに拍手をしてくれた。
玄関で男性の声が聞こえたなと思ったら、フィットネスクラブの名前の入った水色のポロシャツを着た、細身で筋肉質の男性が入ってきた。彼がウリの新しいボーイフレンド、エリックだった。彼はオランダ人。ドイツ語にかなりオランダ訛りがある。
少し帰りが遅くなる下の息子さんのティムを除いて皆が揃ったので、夕食が始まった。献立は今日も「グラシュ」。ビアンカの、こってりとした味付けも美味しかったが、ウリのはあっさりしていて、自然な味で、それなりに美味しい。食事の途中で下の息子さんのティムも帰ってきた。
カロラ、セバスティアン、エリック、ウリに僕が加わって夕食の始まり。