ヘンリーに乗る
デュッセルドルフ、ラインウーファー(ラインの畔の道)
ビアンカは動物好きで、キンバという犬と、沢山の熱帯魚を飼っている。熱帯魚の大きな水槽の前に揺椅子が置いてあったので、そこに座って魚を眺めてみる。凝り性のビアンカは熱帯魚の水槽に、色々な石や植物を立体的に組み合わせて、一種の「風景」を作っている。そこに色とりどりの熱帯魚が泳いでいる。
「竜宮城みたい。」
と呟く。
「それ、何?」
と聞かれるが、余りにも説明が難しそう。
「ううん、何でもない。」
九時にはデートレフの家を辞して、ホテルに戻る。最近は遅くとも六時に起きて、七時半から働いているし、十時にはベッドに入って八時間は休みたい。帰り道、渋滞がないと三十分かからなかった。九時半にはホテルに着く。今日はまだ酒を飲んでいない。バーで白ワインを一杯飲んで、部屋に戻り十時過ぎには眠った。
水曜日。今日も夜「お座敷」がかかっている。カロラと一緒に、「ウリとセバスティアン」の家に呼ばれているのだ。
十年前、僕がドイツの情報システム部で働いている年のクリスマス、独身のカロラが「パートナー」として、何と、自分の「名付け子」である小学生の男の子をクリスマス・パーティーに連れて来た。その子がセバスティアンだった。退屈そうにしているその男の子に、僕は折り紙などを作ってあげた。それ以来、その男の子は僕になついて、お母さんのウリにもよく食事に誘ってもらった。ウリはその後離婚し、再婚した。僕はその結婚式にも招待された。そして、彼女は最近また離婚し、セバスティアンにはお父さんの違う弟が一人いるという。
午後五時半。その日はカロラも早く終わった。彼女の「ヘンリー」でウリとセバスティアンの住むロンメルスキルヘンへ向かう。今日も音楽を披露すべく、僕の車から「ヘンリー」にキーボードを積み替える。「ヘンリー」とは誰か?実は、彼女は自分の車に名前を付ける変な癖があり、今のクライスラーは「ヘンリー」と言う名前で、その前のダイハツは「ソフィー」だった。
「どうして男性の名前になったり、女性の名前になったりするの。」
と聞いたことがあるが、
「そんなことも分からないの、鈍いわね。」
と一蹴され、それ以上聞けなくなってしまった。それで、いまだに謎である。ドイツ語の男性、中性、女性名詞は誰が何時何を基準に決めたのかと同じように。
ともかく、「ヘンリー」でアウトバーンの四十六号線をケルン方面に向かって走る。昨日、デートレフの家からホテルに戻るとき通ったのもこの道だった。
デュッセルドルフ中央駅でハトを眺める若い女性。