夢見るシャンソン人形

 

「夢見るシャンソン人形」を歌ったフランス・ギャル。フランス人ではなくルクセンブルグ人。

 

今日はドイツに来て初めて、五時に仕事を終えてオフィスを出る。一度ホテルに戻り、キーボードを車に積み込んで、高速道路をデートレフの住むノイスに向かう。渋滞がなければ、三十分くらいで着ける距離である。

車を運転しているとき、僕は「WDR四」というラジオ局をかけている。「WDR」というのは「ヴェスト・ドイチャー・ルンドフンク」(西部ドイツ放送)のこと。地元のラジオ局で、大抵はドイツの歌謡曲を流している。ところが、この局では、時々とんでもない古い曲がかかるのだ。ノイスへ向かって、アウトバーンの五十二号線を走っているとき、突然「夢見るシャンソン人形」が流れ出した。もちろんオリジナルのフランス語だが。日本では弘田三枝子が歌っていた。僕の子供の頃の歌。後で調べると一九六五年の曲だという。懐かしい。

渋滞がひどく、デートレフの家に着くのが十五分ほど遅れた。前回一月に訪れたとき、次はキーボードを持ってきて弾いてみせると、僕は奥さんのビアンカに約束をしていた。

「僕のおもちゃ持ってきたよ。」

と彼女にキーボードを見せる。

小学生の息子さん、セドリックがいるのでデートレフの家の夕食はいつも早い。僕が着いてすぐ夕食になって。ビアンカは料理が上手い。今日のメニューは「グラシュ」(牛肉のシチュー)、「クヌードル」(ジャガイモの団子)、それにカリフラワーと赤キャベツである。今日は見事にドイツ料理でまとまっている。(前回は、中華料理の八宝菜だった。)

良く考えてみると、ホテルではフランス料理だし、その他、中華、和食、アラブ料理、イタリア料理は食べた。と言うことは、ドイツへ来て十日になるが、ドイツ料理を食べるのは、今日が初めてなのだ。

夕食の後、キーボードを披露する。ビアンカが、リチャード・クレイダーマンが好きだと言うので、「渚のアデリーヌ」を弾いてあげた。結構喜ばれた。息子さんおセドリックは、コンピューターが好きらしく、僕らの横で、お父さんのお古のラップトップを色々弄って遊んでいる。

八時過ぎに、セドリックが「おやすみ」を言いに来る。その後、しばらく三人で話をしていた。僕が来月ヨルダンに行くというと、

「今行って大丈夫?危なくない?」

とビアンカが聞く。チュニジア、エジプトに続いて、アラブの諸国ではデモが続いている。ヨルダンもその中に入っている。

「友達がいるからね、おそらく危ないところと危なくないところは分かると思う。」

と答えると、

「モトはあらゆる場所に友達がいるのね。」

と感心された。

 

イワシ雲の広がるメンヒェングラードバッハのマーケット広場。