第七章: ディスクが満杯(文字の発見と、文字による支配)

 

 

サッカーをするとき、誰でもボールを蹴り、走ることはできる。しかし、試合をしようとすると、ルールを知る必要が生じる。我々の生活する社会も、皆が共通のルールを理解し、それを守ることによって成り立っている。しかし、社会の中にあるルールは多くて、とても覚えきれない。他の動物の場合、それらのルールは、遺伝子の中に組み込まれている。蜂はかなり複雑な社会を持っているが、それらのルールは全て遺伝子によって伝えられる。しかし、人間が次の世代に伝えるべき情報は、もはや遺伝子に書ききれない。また、一人の人間が理解しなければならない情報も大量で、脳の容積の中には収まりきらない。そもそも、人間を始め、動物の脳は、位置情報など、直感的な事項を記録するのに向いている。しかし、農業革命以降、人間は大量の論理的な情報を蓄えなければならなくなった。国家が出来ると、税金を徴収する必要が出てくる。何百人、何千人から、どれだけの租税を取ればよいのか、その情報は、膨大なものになってしまう。

紀元前三千年から三千五百年、メソポタミアに住んでいたスメラ人が、最初の文字を残している。それらは、六進法の数字で、粘土板に刻まれていた。数だけが記載され、おそらく税金、借金などの記録であったと思われる。最初の文字は、恋愛詩などではなく、無味乾燥な数字だった。そのうちに、数を書くことに退屈した書記が、違うことを書きはじめた。断片的なメモが、次第にシステム化されていく。

文字の誕生は、全世界で起こった。アンデスでは、色のついた毛糸を結んで、意味を表した。そのシステムは何百年もの間、インカ帝国によって管理されていた。紀元前三千年から二千五百年に、メソポタミアでくさび形文字が誕生。エジプトでは象形文字、中国では甲骨文字が誕生した。そして、文字はどんどん広範囲で使われるようになり、公文書から、ついには私信にも使われるようになった。

そこに問題が起こった。毛糸の結び目や、粘土板に書かれた文字を、どのように引っ張り出したらいいかという点である。情報が増えれば増えるほど、その情報にアクセスすることが難しくなる。文字は作られたが、検索エンジンの開発は遅かった。その結果、その検索を専業にする者が現れる。彼らは、文書を作成するだけでなく、文章を整理し、検索するという役割を担った。その結果、経理担当者や官吏など、文書の管理を専門にする人たちが台頭するようになった。年を経るうちに、普通の人々の自然な考え方と、そのような官吏の考え方の差は、どんどん大きくなっていった。

次の大きな発見は、「アラビア数字」であった。それは、あっと言う間に色々な言語の中に取り入れられるようになった。そのうちに、考え方を数値化するということが常識になっていく。人間の「召使い」として現れた文字は、次第に人間を支配する「主人」になっていった。

 

次へ 戻る