第一章:特に特徴のない動物、ホモサピエンス(人類の誕生)
百三十五億年前に、ビッグバンによって宇宙が誕生した。三十五億年前に地球が誕生、七万年前に、「ホモサピエンス」と呼ばれる、我々、現在の人類が現れる。ホモサピエンスは、「認知革命」、「農業革命」、「科学革命」という、三つの「革命的」な出来事を経て、現在の地位を築いた。
動物は、目、属、科という風にグループ化されている。ヒトは、ゴリラやオランウータンと同じ属に入っており、六百万年前に、彼らから分かれたと考えられている。ホモサピエンスとは兄弟となる、同じ「ホモ属」に属する人類が、過去にいくつか存在した。アウストラロピテクス、ネアンデルタール人などである。ホモ属は、直立歩行をするという共通の特徴があった。しかし、そのホモ属は、連続して進化したわけではなく、同時に、いくつかの「人類」が存在していた。そして、その中からホモサピエンスだけが生き残ったのである。
では、どうして、ホモサピエンスだけが生き残ったのか。ホモ属に共通して言えることは、脳が大きいということである。これは直立歩行と密接な関連がある。しかし、脳が大きくなるということは、不都合な点も生み出す。大きな脳は大量のエネルギーを消費する。これまで体力に使っていたエネルギーを、脳に回さざるを得なくなった。しかし、ホモ属が生き残ったということは、その不都合な点を補って余りある、好都合な点が多かったからである。直立方向をするようになり、遠くがよく見えるようになり、手が歩く以外の目的に使えるようになった。そこから道具を使うことが始まった。しかし、直立すると、産道が細くなり、大きな脳の赤ん坊は出てきにくくなる。その結果、子供が未発達のまま産まれるようになった。未発達の産まれるということは、子供の世話に、家族や隣人の助けが必要になったということである。しかし、未発達であるがゆえに、生後の可塑性も高くなったと言える。
大きな脳と、手が自由になったことによる道具の使用は、ホモ属を成功者の座に押し上げた。しかし、彼らはまだ、表舞台には登場していなかった。石器では、獲物を処理することはできても、狩猟そのものは難しかった、それで、ホモ属は最初、もっと大きな獣がとらえた獲物の食べ残しを食べていた。しかし、ホモ属は、次第に食物連鎖の頂点に立つことになる。その最大の原因は、火の使用であったと考えられる。火を使用することにより、他の動物たちを遠ざけ、火で森林を焼き払うことにより、狩猟がより容易になった。火で調理することにより、これまで食べられなかったものが食料になり、殺菌効果により衛生面も改善され、消化のよいものを食べられることになり、食事に使う時間が短縮された。腸が短くなり、脳に割けるエネルギーが一段と増えた。動物が自然界のリソースを使うことには限界があるが、ホモ属は、火を使うことにより、その限界を広げたのである。
ホモサピエンスは約十五万年前に東アフリカで発生し、七万年前にアラビア半島を経由し、アジア、ヨーロッパに広がった。当時、ヨーロッパには別の「ホモ属」が住んでいた。ホモサピエンスが広がるうえで、他の人類と交雑した(交雑説)と彼らを征服した(征服説)の二つがあるが、今では、遺伝子解析の結果、征服説が主流となっている。他の人類のひとつであるネアンデルタール人は、身体も大きく、寒さに強く、火や道具を使っていた。しかし、ネアンデルタール人は、三万年前に、地球上から姿を消す。二〇一〇年に、ネアンデルタール人の遺伝子が解析され、ホモサピエンスに、四パーセント程度、ネアンデルタール人の遺伝子が入っていることが分かった。と言うことは、ある程度までは、ネアンデルタール人とホモサピエンスの交雑がなされていたが、徐々に交雑不可能なほど遺伝子が分かれたと予想される。そして、三万年前を境に、ネアンデルタール人は姿を消す。ネアンデルタール人の他にも、ホモ属は存在した。しかし、一万二千年前からは、ホモサピエンスだけが、ホモ属として、地球に存在することになる。ホモサピエンスが、他のホモ属を征服できた最も大きな理由は何か。それは「言語」であると考えらえる。