変身パーフォーマンス
「変身」した後のサンディ。
「テル・ミー・モア、テル・ミー・モア、テル・ミー・モア〜(もっと話して)」
「ウンパッパ・ウンパッパ・ウンパッパ・ウ〜ウ〜」
舞台では夏休みの出来事を白状し合う「サマー・ナイト」という曲。ふと左側の「クールな」お姉さんを見ると、彼女も微かに手を叩きながら足でリズムを取っている。僕の視線を感じた彼女は、とたんに動作を止めた・
「あの〜、別に、そのままで良いですから。」
しかし、映画を見たとき最初に思ったこと、「俳優に『トウ』が立ちすぎている」というのは今回も同じ印象だった。主人公のサンディをやった女優さん、フェイ・ブルークスという人なのだが、それと丸ポチャのヤンという女子高生を演じた女優さんは、初々しくていかにも女子高生らしかった。しかし、他の「女子高生」達は、「綺麗過ぎる」、「陰影があり過ぎる」のだ。少し違和感がある。このミュージカル、一度、末娘のスミレの通っていたダンス学校でもやったのだが、その時の方がしっくりきた。もちろん、現役の高校生が高校生の役をやっているのだから、しっくりきて当たり前だが。しかし、今日の舞台は、そんな違和感など吹き飛ばしてしまうような、明るく楽しいものであった。
休憩時間。観客席にまたまた五十年代の音楽がディスクジョッキー風に流れる。これには乗せられる。僕より年上のちょっと太目のおばさん達が踊り始めた。アイスクリーム売りのお姉さんが、リズムに乗ってステップを踏みながらやって来るのも良い。
九月にモーツアルトのオペラ「コシ・ファン・トゥッテ」を見た。それまでお嬢様風だった姉妹が、最後には恋人達の扮するヒッピーな男性に乗せられて、パンクな格好に「変身」する場面があった。「グリース」も最後は全く同じパターン。それまでふんわりリスカートの「お嬢様ファッション」で通してきたサンディが、突如黒のボディースーツで登場するのだ。動きも完全にセクシーなものに変わっている。これって、どっちかが真似したのかな。それとも偶然の一致なの。
思っていたより、短い舞台で、九時半には終演。フィナーレは、
「オールウェイズ・ビー・ツギャザー(これからもずっと一緒にいようね)」
という歌詞で盛り上がる。カーテンコールがあって、外に出たとき、僕はまだその歌を口ずさんでいた。おそらく、そのとき劇場から外に出た人の八十五パーセント以上は、小声で、あるいは心の中で、歌っていたと思う。それほど「乗り」の良い舞台だった。
外は木枯らしが吹いていた。僕は、ジャンパーのファスナーを一番上まで上げ、手袋をはめて、ピカデリーからレスター・スクエア駅に向かって歩き始める。「ミュージカルの旅」第一弾はなかなか満足の行く、「コスト・パーフォーマンス」の高い、つまり見返りの多いものになった。歩いていると、右側に、「マンマ・ミーア」の看板が見えた。
「来週はあれで行くか。」
僕はそうつぶやきながら早足でレスター・スクエアへ向かった。