病室での同窓会
久しぶりに顔を合わせた従姉妹と姪。
病院へ戻ると、一番ベテランの看護婦さんが、
「これから髪を洗います。」
と言う。これまで父は何度か洗髪してもらっていたが、ベッドで仰向けに寝たままだった。そんなことが出来てしまうのだ。しかし、今日は車椅子に乗って、バスルームまで行って洗髪をするとのこと。
「見に行ってもいいですか。」
「どうぞ、どうぞ。」
彼女が理髪店式に父の髪を洗うのを見ている。父は腰椎を骨折してコルセットをしているので、前かがみになれるか心配だったが、上手く言った。
「上出来です。」
父の髪にドライヤーをかけながら看護婦が言った。
「看護婦さんって、本当に何でもやるんだ。」
と感心と尊敬をしてしまう。
今日はこれからレントゲンとリハビリがあるとのこと、父は洗髪後しばらく車椅子に座ったままでいることになった。二時ごろ、サチコとタエコが現れる。ほぼ同時にカサネも戻り、病室は同窓会状態になった。サチコとは毎週メールを交換し、ここ数年で何度か会っているが、タエコと会うのは二十年ぶりくらい。
「タエちゃん、亡くなったお母さんにそっくりになったね。」
と言うと、
「カサネちゃんもお母さんにそっくりね。」
とタエコは言う。
父がレントゲンとリハビリに出て行ったので、四人で病院の前の喫茶店に行って話をする。しかし、日本の喫茶店は冷房が効きすぎ。僕にとっては寒くて仕方がない。しかし女性三人は薄い半袖のブラウス一枚で全然平気な様子。日本に住む人は冷房に慣れているのだろうか。夏も涼しい英国の家にはエアコンはない。四人で、それぞれの家族の近況について報告しあう。
一時間ほど喫茶店にいて、病室に戻る。父はリハビリで疲れたのか、ウトウトしている。それでも三人の見舞い客が出て行くのに気付き、
「ありがとう、カサネ、気いつけて産めよ。」
と言った。三人を地下鉄の鞍馬口駅まで送っていく。
「こうやって久しぶりに会えるのも、伯父ちゃんのお引き合わせやね。」
とサチコがしみじみとした口調で言う。
「そうやね、そして、それがお葬式でなくてよかったね。」
と僕は答えた。
亡くなった祖父が張った「網代」の天井。生母の家に残っている。祖父は「網代」の職人だった。