まぶしい太もも
その頃、息子達はコルシカ島でこんなことをしていた。
水曜日、七時に眼が覚める。京都にいるのも後三日。昨夜飲んだせいか、寝るのが遅かったせいか、身体が重い。しかし、今日は鴨川まで散歩することにする。片道十五分歩き、芝生の上で補強運動をし、昨日病院の前に停めたままにしてあった自転車を取って帰る。今日も暑くなりそうだ。病院の横の紫明通りには、真ん中に木の茂った広い中央分離帯がある。真夏にはセミの鳴き声がうるさいほど。今日はまだ一匹だけの鳴き声しか聞こえない。
朝食後、ミドリに書いた絵葉書を郵便局まで出しに行く。途中、G君の実家によりお母さんと話す。G君をヨルダンに訪れたのももう三ヶ月前になる。
その日の父の病室は、午前中ちょっと忙しかった。言語療法士と看護婦が次々現れる。療法士の女性は、父に色々な言葉を話させて聞き取っている。また、飲み込むときの喉仏の動きを注意深く見守っていた。喉にも筋肉があり、それが衰えてくると、食べ物を飲み込みにくくなり、食べ物が気管の方へ行き易いとのこと。
父の昼食のおつきあいをする。
「少しずつ口に入れてね。」
「必ず飲み込んで口が空になってから次を口にいれてね。」
「決してあわてないで、ゆっくり、ゆっくり。」
看護婦たちに言われたことを繰り返す。父は出された四皿の食事をほぼ全部食べた。
「あら、全部食べはったんですか。」
食器を下げに来た看護婦も、父の食欲に驚いている。
ピアノの練習も怠れない。二時半、三十度をはるかに超える気温の中、ママチャリで西院のサクラの家に向かう。今回は出来るだけ起伏の無い堀川通りと御池通りを使う。堀川では小さな子供が浅瀬でチャプチャプして遊んでいる。気持ちが良さそう。
サクラの家に着くと、飼い犬のルナが僕の手や足をペロペロ舐める。汗をかいて塩が吹いているのできっと美味しいのだ。ピアノを弾き始めようとしたら、サクラの姪のユメが来た。
「暑う〜、やってられんわ。」
と言いながら。学校から帰ってバイトの時間までお昼寝をしていくという。昼寝の邪魔になるのか、子守歌になるのかは分からないが、僕はいつもの曲を弾き始める。
サクラと話して少し気が晴れる。彼女の色は名前の通り「さくら色」だろうか。夕べ会った妹のイズミはもっと濃い色のような気がする。しかし、サクラに会うのも今回はこれが最後。例によって僕が角を曲がるまで手を振り続けてくれている。そんな彼女の性格が好きだ。
京都の街には自転車が多い。ヒラヒラのワンピースやミニスカートの娘さんたちもガンガン自転車を飛ばしている。よく発達した太ももが中年のおじさんにはまぶしいい。
何百回、何千回と前を通ったが、まだ一度も入ったことのなかった中華料理屋。