おしっこの取り持つ縁
スキポール空港のチーズ専門店。チーズのデザインのカウンターが可愛い。
チェックインの後、荷物検査のところで、僕だけ新型のスキャン機に連れて行かれる。このスキャン機、身に着けている物が全て透けてしまうので、プライバシーの侵害だと問題になったものだ。ロンドンでも設置され、数十人にひとりくらいの割合で試験的に運用されているらしい。
「でも、どうしてそれに僕が選ばれたんだろう。」
全く分からないが。もちろん、何も怪しいものは所持していないので、あっさりと放免になる。
出発前の時間、ミドリに手紙を書いて過ごす。日本から父親の重病を知らせる手紙、落ち着かない二週間の出張、疲れたダーラム往復。そして、コルシカ行きのキャンセル、あたふたと日本行きの切符の手配をしたこと、そんな経緯を手紙に書いた。彼女に書く手紙はいつもイラストを交えた絵手紙なので結構時間がかかる。気がつくと九時半、搭乗の始まる時間であった。
三十分遅れて離陸したKLMオランダ航空のアムステルダム行きだが、定時にスキポール空港に着く。隣の席は先ほどトイレへ行っている間荷物を見ていて上げた、黒人の小柄なお姉さんだった。既に「顔見知り」になっていたので、少し話をする。「おしっこの取り持つ縁」とでも言うのだろうか。
「今日はこれからどちらかへ行かれるんですか。」
と聞くと「ラゴス」とのこと。ナイジェリアだ。アフリカ行きに乗り換える人達なのか、乗客の半分が黒人。前の黒いお兄ちゃんは自分の荷物をヘッドロッカーに入れるために、他人の荷物を引きずり出して知らん顔。アフリカというのは生存競争の激しい場所なのだ。
スキポール空港のバーで「ハイネッケン」ビールを飲みながらまたミドリに絵葉書を書く。一時間半ほどの待ち時間で、大阪、関空行きのKLM機に乗り込む。今回は乗客全員が新型の「全身スキャン機」の中に立たされている。
飛行機中、僕は一番後ろの席。前の席にどこかで見た女性が。友人のノリコだった。同じ日の、同じ飛行機の、一つ前後の席になるなんて、何たる偶然。しかし、ロンドンで勉強する彼女だが、突然大阪の実家へ一時帰国をすることになったという。その理由は、
「犬が病気になったので。」
それを聞いて一瞬呆気にとられる。僕は父、彼女は犬、お互い大切な者なのだろう。
しかし、飛行機の中で僕はせっかく一緒になったノリコとほとんど話さなかった。眠っていたのだ。精神安定剤を飲んだせいか、十一時間の飛行中七時間くらいは眠れた。それと、元々疲れていたこともあるが。眠れることで精神的に楽になる。ただ機内食が口に合わない。食べた後、胸にもたれて気持ちが悪い。スキポール空港でラーメンでも食べてこればよかったと思う。しかし、日本行きの飛行機の中でこれだけ眠れたのは新記録ではなかろうか。食べたら吐くような気がしたので着陸の前の朝食はパスする。
アムステルダム、スキポール空港。全くもって当然のことだがオランダ航空の飛行機が並んでいる。