仕事と家庭どちらが大事
侵食が進み、ヨルダンの「ペトラ」状態になった大聖堂の側壁。
マユミとふたり大聖堂の周囲を歩く。大聖堂は薄い色の砂岩で出来ている。雨のよく当たる場所は侵食で石が溶けたようになっている。数ヶ月前にヨルダンで見た、ペトラの遺跡を思い出す。ダーラムは緑の多い、落ち着いた、美しい街だ。しかし、余りにも小さすぎて、住んでいるとすぐ退屈してしまうとスミレは言う。
十一時過ぎ、スミレから携帯に電話がある。リハーサルが終わったという。それで、カレッジに戻る。
スミレに、
「パパはコルシカへの休暇は一緒に行かない。その間お祖父ちゃんの見舞いに日本へ帰る。」
と言うと、彼女は怒り出した。
「ドイツへの出張へは行きながら、家族との休暇を取りやめるのは、おかしい。」
と言う。
「もし、父親が大切なら、ドイツへの出張を取りやめて行くのが『スジ』ではないか。」
というのが彼女の論点である。それも分からないではないが、ドイツ出張はもう済ませてしまっている。それに、僕は日本人であるから、どうしても仕事を優先させてしまう。その点、スミレの考え方は完全にヨーロッパ人的なのだと思う。
三十分ほど、今度は三人でダーラムの旧市街を散歩する。と言っても、ダーラムの街は小さく、隅から隅まであるいても、三十分あれば十分なのだ。なかなか洒落たカフェもあるし、ダーラムの街の周辺にはなかなか景色の良さそうなハイキングコースもあるらしいが、全てはまた次の機会。スミレはもう二年この街に住むのだし。
昼過ぎにスミレと別れて南に向かって走り出す。日曜日の午後、朝とは打って変わり、車の量も増え、工事現場や事故現場で何度も渋滞する。
午後七時、ロンドンに辿り着いたときにはマユミも僕も疲れ果てていた。往復約千キロの運転。しかし、ふたりで交替の運転で、また、日の長い季節でずっと明るかったので助かった。しかしダーラムは遠い。
疲れていたけれど、急いで庭の芝刈りをする。ドイツにいる間刈っていなかったし、これ以上伸びると刈りにくくなる。僕達が疲れているのを見て、ワタルが夕食を作ってくれる。彼の作った焼きソバを食べ、久々に風呂に入って(ドイツのホテルはシャワーしかなかったので)九時ごろには眠ってしまった。
月曜日、二週間ぶりにロンドンのオフィスに出る。最近はどこにいても会社のサーバーにラップトップを繋げるので、メールを読んだり、プログラムを直したりの仕事はできる。しかし、さすがに二週間職場を空けると仕事が溜まっている。また、今回はコンサルの仕事が多かったので、報告書を作らねばならない。木曜日の朝には日本へ発つことになっている。こんなペースで仕事を片付けていて、果たして水曜日までに終わるのか、心配になってくる。
あっと言う間に一回りできてしまうダーラムの街。