白いアスパラガス

 

シュパーゲルの料理を始めたマーゴットとジギ。

 

ヘルガの準備した料理を前に、六人で昼食の席に着く。クラーク家では食事の前に必ず「感謝のお祈り」がある。今日はそれをクラーク氏が担当。食事の最中に、ベンが飲み物の入ったコップをひっくり返し、テーブルと床を水浸しにする。どこの国でも、どこの家でも二歳の子供のすることは変わらない。

食事の後、ベンはお昼寝の時間。ベンだけではなく、クラーク氏も「お昼寝」をするといって食堂を出て行かれた。クラーク氏は看護師をやっていたが、腰を痛め、十年前に既に引退しておられる。ヘルガはまだ働いているが。ヘルガとミリアムでお互いの家族の近況について報告し合う。

三時過ぎにヴァイデンハウゼンに戻る。昼食のときにビールを飲んだので眠い。マーゴット夫婦の家に戻るなり、ベッドに横になり少し昼寝をする。

その後は例に寄って、一時間半ほどピアノの練習をする。今日はそれほど暖かくない。しかし、マーゴットもジギも庭の寝椅子で本を読んでいる。マーゴットは毛布に包まっている。外にいるのが好きな人達なのか、それとも僕の下手なピアノからの逃避なのか。

ピアノの練習が終わって僕も庭に出ると、

「なかなかのBGMだった。」

ジギがと昨日のビルマと同じことを言った。

「今日の晩御飯は『シュパーゲル』よ。」

とマーゴットが言う。シュパーゲルとは、ドイツ特有の白いアスパラガスだ。新鮮なものは五月から六月にかけてだけ食べられる。少し苦味があるが、なかなか美味しい。ちょうど日本のタケノコのような感覚だ。

ふたりがシュパーゲルを料理するのを見ている。先ず皮をさっと剥き、大き目の鍋で茹でる。それでお終い、実に単純。それにバターのたっぷり入った白いソースをかけて食べる。シンプルな味だが美味い。

食事をして後片付けが終わったのが午後八時前。それから三人で散歩にでかけることにした。十時まで明るいのだからまだまだ散歩はできる。

村を出て、麦畑の間を通り、森を抜けて四十五分ほど歩く。途中リンゴの木の並木があった。秋になったら辺り一面落ちたリンゴだらけになるのかなと思う。トレッキングを終えて家路に就く一段とすれ違う。ヒバリが鳴いている。森と村の境目のところにシカがいた。本当に牧歌的。次はマユミをつれてノンビリ一週間ほど休暇に来たい場所だ。

九時過ぎに家に戻る。辺りはボチボチ夕暮れになってきている。またワインを飲み、音楽を聞きながら三人で話す。日本の原発事故の話になる。

「ドイツであんなことが起きたら、各地でデモの嵐になっているはず。日本ではデモの話なんか聞かないし。日本人って本当に我慢強い人々なんだ。」

とジギが言った。

 

料理ができたシュパーゲルを前に。

 

<次へ> <戻る>