三波春夫の賛美歌
礼拝の前のクラーク一家。背景に丘の上に立つマーブルク城が見える。
マーゴット夫妻の家を出てマーブルクに向かう。「礼拝」は昔僕らの家族が住んでいた場所の近くの療養所を改造した「クリストハウス」(キリストの家)で十時から行われることになっていた。九時半にはもうそこに着いてしまったので、昔住んでいたアパートの前まで行ってみる。アパートの前に車を停め、辺りを眺める。僕たちが住んでいたのは十二番地の二階。基本的には何も変わっていない。アパートの前の芝生の広場にある子供達の遊んだ遊具も、代は変わっているだろうが、基本的に同じものが置かれていた。
「当時は将来英国に住むことになるなんて、夢にも思っていなかったな。」
と考える。
クリストハウスの前に車を停め、テラスで待っている。建物は城や旧市街のある丘からラーン川を挟んで反対側の丘の中腹にあり、眺めが素晴らしい。対面に城やエリザベート教会が見える。「礼拝」の始まる五分前に、クラーク家の人々が現れる。お母さんのヘルガが手を振っている。一緒に来たのはヘルガのご主人と、長男のハリーだ。娘さんのミリアムとお孫さんのベンは家にいるという。彼等夫婦の残りのふたりの子供たち、アレックスとレナーテは、職を持って別の街に住んでいる
三人と再会の挨拶とハグをした後で、クリストハウスの中に入る。「礼拝」の行われるホールはほぼ満員。英国の礼拝と違って、若い人が多い。
隣の若いカップルは、秋から女性の方がマーブルク大学で勉強することになったので下見に来たという。大学の下見に来て、日曜日のその土地の礼拝にも顔を出すというのも、考えてみればすごいと思う。
「礼拝」と言っても、音楽は若いグループがギターとキーボードの伴奏でやってしまい、曲も皆モダンというか今風というか。お説教も若い外国人のお兄ちゃんがジーンズ姿でやってしまう。基本的に、この辺りは「ルター派」の新教の地域なのだが、ここの「礼拝」はそのなかでも新しい。歌の中には、ウド・ユルゲンス(オーストリアの三波春夫的歌手)の「夕映えのふたり」のメロディーまであった。
「別れの朝ふたりは、さめた紅茶飲み干し・・・」
それを、神を称える歌詞で歌うのはちょっと変な感じ。
昼前に「礼拝」が終り、僕の車で、クラーク夫妻の住むキルヒハインという村に向かう。後部座席にはキーボードが乗っているので、クラーク氏とハリーには悪いが、キーボードを膝に乗せて座ってもらう。
家に戻るとミリアムと彼女の息子の二歳になるベンが待っていた。ミリアムは未婚の母。ミリアムとベンは二年前の夏、ロンドンの我が家に二週間滞在している。そのときベンは生まれて半年の赤ちゃんだった。今ではもう走り回り、何かを話している。彼等がロンドンに来たとき、ミリアムが買い物に行っている間、僕がよくベンの子守りをした。ベンは何故か「おれたちひょうきん族」のDVDが好きで、喜んで見ていたのを覚えている。
礼拝の後で。参加者に若い人が多いので驚く。英国では爺さん婆さんばかりだが。