梯子車の使い道
ヴィックラート城にあったスフィンクスのような像。
木曜日、午前中エヴァルトに教育をしていると、アンディが入ってきた。アンディはロンドンで僕の上司、今日は会議のためにドイツへ来たのだった。エヴァルトは新しいメンバーなので、アンディとは初対面だ。
「こちら、アンディ、僕のロンドンの上司。こちらエヴァルト、新しく入られたエンジニアです。」
とお互いを英語で紹介する。
「それで、あなたはどなたでしたっけ。どこかでお見かけしたようにも思いますが。」
とアンディが真面目な顔をして僕に言う。
「ああ、私ですか、『モト』と申します。カロラのアシスタント、『下働き』、『奴隷』みたいな者です。」
と答える。隣でカロラが噴き出している。
その日の午前中、仕事をしていると、カロラが、
「モトはケイトとピッパとどっちが好きなの?」
と突然聞いてくる。ケイトとは、このまえウィリアム王子と結婚した、ケイト・ミドルトン、ピッパとは彼女の姉のフィリパ・ミドルトンのことだ。ピッパは「ロイヤル・ウェディング」の際、妹の介添役をしており、テレビ中継の画面によく登場した。妹に勝るとも劣らぬきれいな女性なので、最近人気上昇中なのだ。しかし、その話題がドイツでも出るとは思わなかった。
「やっぱ、ピッパかな。」
と答えておく。
その日はそれから夕方まで、英国、オランダ、ドイツのマネージャーが集まっての会議に参加する。帰り際、「偉いさん」たちに夕食に誘われる。
「モトさん、今晩デュッセルドルフで一緒に食事しない?」
でも、断ってしまった。デュッセルドルフまでは車で行けて、美味しい物が食べられても、そこからメングラまで電車で戻るのが、面倒臭いんだもん。上司の好意からの申し出を、「面倒臭い」って断っていれば、まあ出世はしないでしょうね。
夕方ホテルに帰った後、また森の中を散歩する。森の木が開けたところに、オレンジ色の消防自動車、それも梯子車が出動して、梯子を伸ばしている。よく見ると、森の木の上の方にひっかかった模型飛行機を取っているのだ。
「模型飛行機が木に止まったくらいで、消防署に通報する人も人だが、それで出動する消防署も消防署だわ。」
と僕は感心した。ドイツでも、この辺りはまだ基本的に田舎なのだろう。全てがノンビリしている。
マユミに電話。彼女は母と電話で話している。父親の容態は小康状態と言ったところ。
中華料理店でガチョウを食べた後、生きているガチョウを観察。