九十歳の偶然
夕食のお供は白ワインとペーバーバック。
夕食を取りにレストランへ行く。さすがにこれだけ同じレストランで食べていると、ウェイターは僕の顔を覚えていて、
「カワイさん、こんばんわ。」
と挨拶してくる。
テーブルに案内される。隣のテーブルに六十歳くらいの男性がやはり独りで座って料理を待っていた。話しかけてみる。
「こちらへはお仕事ですか。」
「九十歳の叔母がこちらの老人ホームにいるんでね。毎年一度訪れることにしてるんですよ。自分はカールスルーエに住んでいるんですけど。」
とのこと。「九十歳!?」、父と同じ年齢だ。こんなときには奇妙な「運命のいたずら」に思えてくる。
「それで叔母様はお元気でしか。」
と尋ねてみる。
「まあ、何とかやってました。」
日本人と話をするのは生まれて初めてだというその親爺さんと、しばらく話をして過ごす。
金曜日、今日はデュッセルドルフの顧客を訪問する日。一緒に行くメンバーは皆、昨晩からデュッセルドルフに泊まっている。僕だけが朝メングラからデュッセルドルフまで電車で移動しなければならない。電車では四十分ほどの距離。同僚とはデュッセルドルフ、イマーマン通りの日航ホテルで落ち合うことになっていた。
朝七時にタクシーに乗り、ライト駅へ。そこのホームで待っていると、
「あなた、『ドイツ語を話す日本人』でしょ。」
と声を掛けられた。金髪のポニーテールの小柄な中年の女性。顔に見覚えがあるぞ。そうだ、朝夕いつも車の鍵の受け渡しに総務経理部に顔を出していたが、そこで働いている女性だ。経理担当だという。
今日彼女はお休み。これからデュッセルドルフに行くという。彼女と同じ電車に乗り、車中話をしながら過ごす。僕の子供たちと同じくらいの年齢のお子さんがおられるとのこと。と言うことは、彼女も僕と同じよう年齢だろう。そんな年代の子供を持った親の悩み事というものは、何処の国でも同じようなものだと思いながら彼女と話していた。
デュッセルドルフ中央駅で
「シェーネン・ターク!」(楽しい一日を!)
と言って彼女と別れる。
日航ホテルでオランダから来た同僚と落ち合って、デュッセルドルフ空港の近くの顧客を訪問。その後、オランダ組と別れ、同僚の車で昼前にメングラのオフィスに戻る。午後は打ち合わせやエヴァルトの教育。六時に退社した。
毎朝、毎夕散歩していた緑のトンネルのような森の中の小道。