タイブレーク

 

モハメド・アリではないが、テニス選手も、蝶のように舞い、蜂のように刺す。

 

ダブルスの選手の表情を観察していると。結構、笑顔を見せることが多い。真剣勝負をしているのだから、もっと、目を吊り上げてプレーをしているのかと思っていたが、得点を挙げたときはともかく、失敗したときも、白い歯がこぼれることがたびたび。見ていて微笑ましい。

「楽しく行こうや。」

 電光掲示板を見ると、ナンバーワンコートが面白くなってきそうなのでスタンドに戻る。座席への出入りは、二ゲームが終わって、サイドが変わるときの、二分間の休憩のときだけしていいことになっている。

第三試合は緊迫した試合だった。結果的には三対ゼロでチェコのヴェスリー選手が勝ったが、三セットとも、ふたりのプレーヤーは自分のサービスゲームをひとつも落とさなかった。

「これってすごい!」

と言うことは、三セットとも六対六で、タイブレークだったのだ。

タイブレークになると、双方が二回ずつサーブをし、相手が失敗すると一点を加え、どちらかが七点取ったところで、そのセットの勝敗が決まる。そもそも、「ゼロ−十五―三十−四十(どうして四十五じゃないの)」という、全く数学的に根拠のないカウントをする通常のセットより、タイブレークの方が分かり易い。タイブレークのない時代は、ゲームが六対六になった後、どちらかが二ゲームを連続して取るまで続けられていた。そもそも、実力が拮抗しているので六対六になるのだ。二ゲーム連取はそれほど簡単ではない。七対七、八対八、と延々と続くことが多かったのだろう。タイブレークは、それを食い止め、さっさとセットを終わらせるために作られたルール。ちなみに最終セットはタイブレークなし。

その試合、オーストリアのドミニク・ティーム選手が、二セット続けてタイブレークでセットを落としていた。第三セットもまたまた同点でタイブレーク。判官贔屓ということもあって、観客の殆どが、ドミニク・ティーム選手を応援する。

「カモン・ドミニク!」

「ゴー・ドミニク!」

という声援が飛ぶ。それにも関わらず、ドミニクは、またまたタイブレークでの敗退。試合終了。

試合が終わって外に出たときは、もう八時半を過ぎていた。八時半と言っても、夏の英国のこと、まだまだ明るい。試合は最後まで照明なしで行われた。出口の近くに、全ての試合の結果と、誰が勝ち抜いたかを示す板があり、すでにその日の試合の結果が書き込まれている。シングルスだけでも、男女各百二十八人が出場している。優勝者が決まるまで、各百二十七試合が必要なわけ。今日がまだ第二ラウンドなので、先は長い。英国のホープ、男子のアンディ・マリーは勝ち、女子のジョー・コスタは敗れたようだ。

 

 

誰が勝ち抜いているかを示す掲示板。梯子はもちろん、新しい結果をはめ込むためにある。

 

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