ウィンブルドンで学んだこと

 

どこかの国のテレビ局が中継中。無理矢理写っても、どこの国で放映されるか分からない。

 

ウィンブルドン駅に着いたときは午後九時。直通列車は五十分後までなく、僕たちはウォータールー行きの電車に乗った。窓の外がやっと暮れなずむ。ウォータールーから地下鉄で、僕たちの住む、ハートフォードシャーの町まで行く電車の出る駅まで行く。夜は電車の本数が少なく、下手するとそこで三十分以上待たなければならない。でも、その日駅に行くとちょうど、僕たちの町まで行く電車がホームに入ってきた。

「ラッキー。」

と僕。

「心配していた雨も降らなかったし、今日はラッキーな一日だったね。」

と妻が言う。

「これも、あなたの普段の行いが良いからやね。」

と妻に言うと、彼女は、

「それ、皮肉なの。」

と照れていた。

 その翌日から、僕は例年になく、ウィンブルドンからの中継やハイライトを見た。やっぱり、自分の行ったことのある場所が写ると、一段と興味が湧くよね。それと、ウィンブルドンで学んだことがある。相手の球を待つときの姿勢と、位置。どの選手も、サーブを受けるときは、腰をグッと沈めて、どちらにでも、すぐに動けるように構えている。僕はつぶやいた。

「あれを真似してみようっと。」

それと、

「どうして、右や左に打ち分けられてもちゃんと返せるんやろか。」

と僕は最初不思議に思った。しかし、しばらく見ていて、その理由が分かった。確かに、ボールを追って右や左に移動するが、そのたびに、実に素早く、元の真ん中の位置まで戻っているのだ。だから、次の球が右でも左でも対応できるのね。

 さて、ウィンブルドンから戻った翌々日の土曜日の朝。妻と僕は再び対戦した。今や妻との対決は、星飛雄馬と花形満の「因縁の対決」と似た様相を呈している。

「今日こそ勝って、弟や妹を喜ばせるたい。」

あ、これは左門豊作だった。

昨年は、結構僕が勝っていたのだが、僕は年末に肩を壊し、半年間ほどブランクがあった。その間に立場は逆転。僕の肩の故障が癒えて、再びテニスを始めた僕だが、復帰後三試合、妻にはケチョンケチョンに負けていた。一度なんか六対〇のゼロッチン。果たして、その日はウィンブルドンで学んだことを実行。腰を落としてサーブに備え、打ったら、できるだけ早くホームポジションに戻る。その効果があってか、今年初めて妻に勝った。

「やったあ。」

久しぶりの勝利の味。ウィンブルドンの選手の気持ちが、万分の一でも分かったような気がした。

 

学ぶは真似ぶ、一流選手の動きを観察していると、本当に勉強になる。

 

<了>

 

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