クローケーって何?
ウィンブルドンの駅前はタクシーとバスを待つ人の長い列。歩いた方が速よおます。
駅に置いてあった無料新聞の「メトロ」で、その日の試合の組み合わせを見る。僕たちが行くナンバーワンコートでは、午後一時から三試合が組まれている。「ディミトロフ対シモン」、「セペロヴァ対ムグルザ」、「ティーム対ヴェセリー」なんだって。
「どなたはんでっしゃろ。」
全然知らない名前ばっかり。平日の午前十時過ぎなのに、電車はほぼ満席。しかし、よく観察すると、ほぼ全員がウィンブルドンへ行く人たちのよう。案の定、ウィンブルドンで、大部分の乗客は降り、電車は空になった。心配していた天気だが、快晴ではないものの、青空も見え、まずまずのテニス観戦日和。
ウィンブルドンの駅から、会場の「オール・イングランド・ローン・テニス・アンド・クローケー・クラブ」までは歩いて二十分ほど。駅からバスも出ていて、タクシーにも乗れるが、乗り場の長い列と交通渋滞を考えれば、絶対歩くのが早い。ところで、「ローン・テニス」というのは「芝生の上でするテニス」でしょうね。
「では一体、『クローケー』(croquet)って何だんね。」
そう言えば、「不思議の国のアリス」で、フラミンゴをバットに、ハリネズミをボールにして「クローケー」をするという場面があったぞ。帰って調べてみると、日本の「ゲートボール」によく似たゲームだった。芝生のきれいな英国では、芝生の上でするスポーツが結構色々あるのね。
駅から降りて、僕が会場へ向ってスイスイ歩いていくので、妻が、
「あなた、初めてなのに、よく道を知っているのね。」
と感心する。
「へへへ、初めてのようで初めてでない、ベンベン。」
実は、昔、僕はウィンブルドンで行われるハーフマラソンに毎年参加して、この街中を走り回っていたのであった。周回コースだったので「ローン・テニス・クラブ」の前は何十回も通り過ぎた。アップダウンが多くて、結構タフなコースだった。
ゲートのところに長い列が出来ている。荷物検査が結構厳重で、それを待っているのだった。待っている間、横に立っている、警備の若い女性と話す。
「エキサイトしていますか。」
と彼女が聞いてくる。
僕:「うん、今日、生まれて初めてここへ来たの。」
彼女:「リュックの中はお弁当ですか。」
僕:「うん、殆どが食べ物と飲み物。」
彼女:「それが正解ですよ。ここで買うと、何もかもメチャ高いですから。」
そのお姉さんは、大学を卒業して、二週間だけ、ここウィンブルドンの警備のアルバイトをしているとのこと。そうだよね、年に二週間だけなんだもの。アルバイトで十分。
これがクローケー、若者が真剣にやるスポーツではおまへんな。