二つのカメラ
カメラを持った僕が写真に写っているのは、カメラを二つ持っているから。
写真は僕の趣味のひとつ。旅行をするとき、何時もカメラを二つ持ち歩いている。ニコンの一眼レフと、同じくニコンだが、いわゆる「バカチョン」。自分が撮るときは、常に一眼レフを使う。望遠で撮るとき、動いている物体を撮るとき、一眼レフの方が格段に狙い易いから。もう一つの小さいカメラは、他人に撮ってもらう時のためである。
「すみませ〜ん。ちょっとシャッター押してもらえませんか?」
独りで旅行していると、やはり自分の写真が欲しいし、妻と旅行していると、たまにはツーショットの写真が欲しい。それで、必然的に人に頼むことになる。しかし、最近、一眼レフの使い方が分からない人が多くて大変。十人いれば九人まで携帯電話で写真を撮ってる時代だもんね。
「あれ〜?何も写らないんですけど。」
と、カメラを顔から三十センチくらい離して言う人がある。
「あの〜、そのカメラ、顔をくっつけて『ファインダー』から覗いてもらうと、見えるんですけど。」
そんな会話を何度も繰り返すうちに、僕はポケットに入る、コンパクトカメラも持ち歩き、人に撮ってもらうときは、そちらを渡すことにした。
たまに、僕のように一眼レフを首からぶら下げた同好の士に出会う。そんなときは、一眼レフで撮ってもらう。その日も、僕と同ニコンだが、数クラス上の一眼レフを持ったおじさんに、ペイントンのSL列車のホームで出会った。もちろん、彼には一眼レフで撮ってもらった。
「どこから来られたんですか?」
と聞くと、ご夫婦でバーミンガムから来ているとのことだった。
そのご夫婦と、クルーズでも一緒になった。船の上でまたカメラを渡して僕の写真を撮ってもらう。
「何時も、そのカメラ持ち歩いておられるんですか?」
と僕が訪ねる。
「そうなんですよ、何時もこの大きいカメラを提げているんです。重いから、小さいのにしたらって言うんですけど。」
と奥さんが答えた。
「やっぱり、『プロパー/ちゃんとした』カメラでなくちゃいかん。」
とご主人。僕はそれを聞いて笑ってしまった。自分も一眼レフが「ちゃんとした」、「本当の」カメラで、それ以外はおもちゃのように思うことがあるからだ。実際は、小さいカメラでも、携帯電話のカメラでも、撮った写真の品質は結構良いのにね。僕は言った。
「『一眼レフ』っていうのは、一種の宗教みたいなもんですかね。私たちはその信奉者。」
バーミンガムのおじさんは、笑いながら同意してくれた。
身を乗り出して、何とかいい写真を撮ろうとしているのは、僕だけじゃないようで・・・