リバー・クルーズ
ダートモースの街、北欧のような雰囲気でもあるし、ギリシアの島のようでもある。
SL列車はちょうど三十分で、終着駅キングスウェアに着いた。蒸気機関車が、客車から切り離され去っていく。プラットホームを出ると、フェリーが待っていた。僕の切符は、「ペイントンからダートモースまで」となっている。最後はダート川を渡るフェリーに乗って、目的地に到着するコースのようだ。列車から降りた客は、ほぼ全員フェリーに乗った。
フェリーが岸を離れる。
「う〜ん、この景色もどこかで見たことがあるぞ。」
この日も「デ・ジャ・ヴー」に襲われた僕はまたまた過去の記憶を手繰る。
「そうや、シミ島や!」
ギリシアのロードス島に行ったとき、近くにあるシミ島という小さな島に船で渡った。そのとき、湾に沿った斜面に、色とりどりのパステルカラーの家が立ち並び、その美しさに息を呑んだことがある。対岸のダートモースの景色はまさにそれ。斜面にカラフルな家々が立ち並んでいる。
フェリーがダートモースに着いたのが、十一時半少し前。帰りの列車は、午後一時。船着き場に「リバー・クルーズ」と書かれたブースがあり、次の出発は十一時三十分と表示されている。
「かみさんは今週、豪華客船でアドリア海クルーズ。僕も負けんと、クルーズしてみっか。でも、時間があるかな。」
そう考えた僕は、ブースのお姉さんに聞いてみる。
「十一時半のクルーズ船に乗って、十三時の列車に間に合いますか?」
大丈夫だという。鉄道と船は同じ会社が運営しているので、全てが上手く連動しているのだった。
僕は「クルーズ船」に乗り込んだ。妻が乗っている船は、全長二百メートルはあると思うが、こちらは二十メートルくらい。二十人くらいの客は全員デッキに出ている。船が岸を離れる。陽光は眩しいが、風は涼しい。ダートモースは、ダート川が海に流れ込む場所にある。船はまず川を遡り、Uターンして、海まで出て、そこからまたUターンして桟橋に戻る。両側は鬱蒼とした森。
「映画のロケで、アマゾンとして使われたこともあります。」
とガイドの女性が言った。その後ろには丘と牧草地が聳え、羊のベージュ色の点々が散らばっている。沢山のヨット、ボートが停泊している。カヌーをしている人もいる。
船は海への出口へ近づく。それに従って、船はうねりに翻弄されはじめ、揺れがひどくなる。河口の両側には城が立っていて、その向こう、沖合には、妻が今日乗っているような、大型の客船が停泊していた。
「クルーズ船が来るくらいだから、ここって、結構有名な場所なんや。」
僕は再認識した。
ダート川の河口には両側に見張りの城が立っている。沖合には巨大なクルーズ船が停泊していた。