SLの旅
この会社は六両蒸気機関車を所有している。補修中のものもあり、現在使われているのは二両である。
一日目の夕食は、海岸のパブで取る。外にもテーブルがあり、そこで食べている人たちも沢山いるが、僕にはちょっと涼しすぎる。夕食の後、ヨットハーバーにあるバーに入って、そこでもう一杯飲む。
「え、もう、九時半なんや。」
と驚く。まだ太陽が湾にキラキラと反射している。トーキーはロンドンより三百キロ近く西にあるので、日没も遅いのだ。十時前にバーを出て歩いてB&Bに戻る。ようよく日が沈んで、辺りが青みを帯びてきた。
「今日はよく歩いた。」
と自分でも感心する。おそらく十五キロ以上。B&Bへの登り坂が少し辛い。部屋に戻ってテレビをつけると、「アポロ十一号月面着陸五十周年」の記念番組をやっていた。
「あの日、小学校六年生。翌日からの林間学校の準備をしていたなあ。」
と思い出す。
翌朝、ペイントンの、SL鉄道の駅で。
「ガラガラやん。どないなってるねん。」
僕は、一両に三組くらいしか乗っていない客車を見て驚いた。二日目の午前中、「鉄道おたく」の僕は、蒸気機関車、SL列車に乗ることにしていた。出発はトーキーの隣町のペイントン。僕が昨日、パディントンから乗った列車の終着駅である。そこから、キングスウェアという町まで、一日に繁忙期には九往復、普段は四往復SL列車が走っている。片道、三十分の旅である。僕は三日前に座席を予約したが、おそらく夏休み最初の日曜日なので、混んでいると思っていた。何となく、カメラを持った人がわんさか押し寄せ、プラットフォームが満員になり、沿道にもカメラの放列、そんなイメージでいたのだ。ところが、その日、ペイントン駅で待っていたのは五十人にも満たない乗客。
「う〜ん、英国人にはSLが日常的にあり過ぎて珍しくないのか、それとも英国人はSLに対して日本人ほどノスタルジーを感じないのか。」
後方で準備をしていた蒸気機関車が前方へ移動し、十両ほどの客車を従え、汽笛と共に走り出す。汽車の汽笛は、すこし物悲しくて、何時聞いてもよいもの。街を出て、列車は砂浜の横を通る。砂浜を歩いている人々が手を振っている。こちらも手を振り返す。
「やっぱり、蒸気機関車は英国人にとっても特別なんだ。」
と少しホッとする。途中、何度か小さい駅に停まりながら、列車はカーブの多い路線を走る。海が見えたり、山が見えたり、景色に変化があって楽しい。今乗っている路線の開通は、日本の明治維新の数年前、一八六四年だという。さすが英国、全てに歴史が長い。一九六八年に、利用者の少なさから、英国交通省が廃止の決定をする。幸い、その後、民間の会社が買い取って、SLによる運航を続けているとのことだ。現在は「ダートモース蒸気鉄道、ダートモース観光船」会社が運営をしている。
走っている写真を撮りたいのだが、中に乗っているとそれが無理。身を乗り出して撮るしかない。