偶然?必然?

 

夕方のプロムナード。もう九時近いのに、まだ太陽が照っている。

 

「これって、偶然?必然?」

僕は呟いた。五時ごろに一度B&Bに戻り、テレビをつけたら、アガサ・クリスティーの「エルキュール・ポワロ」をやっていたのだ。ちょうど、クリスティーの故郷にいるときに、彼女の原作の映画を見てしまう、偶然というか、巡り合わせというのは面白い。彼女の作品は、一九二八年に最初に映画化され、新しいところでは、「オリエント急行の殺人」が、二〇一七年に、英国の俳優、ケネス・ブラナーが演出し、自ら主演して作られている。また数多くテレビドラマ化もされている。僕も何本か見た。その日の番組では、デヴィッド・スーシエがポアロを演じていた。個人的には、この人の演じるポアロが一番僕のイメージに近い。風貌もそうだが、

「スーシエのフランス語訛りの英語が最高!」

ポアロはベルギー人なのである。

 さて「奇妙な偶然」と思ったが、そうでないのかも知れない。先にも書いたが、クリスティーの作品は、百以上映像化されているし、英国人は結構クリスティーの作品を好きなので、おそらく毎週末、そのうちどれかが、テレビで放送されているのではないだろうか。これから数週間、テレビの番組表をチェックしてみたい。これと同じことが言えるのが「刑事コロンボ」シリーズかな。一時、週末の昼にテレビをつけると、民放のどこかで、ピーター・フォーク演じる、コロンボ警部の顔を見ることができた。

 一服して、シャワーを浴びて、夕食のために再び海岸のプロムナードに向かう。

「パパ、お土産に『ロック』を買ってきて。」

と娘のミドリが言ったのを思い出した。このロック、「岩」ではない。ウィキペディアによると、

「煮て溶かした砂糖を固めたスティック状のお菓子。通常ペパーミントかスペアミントの味がする。(中略)文字や模様が真ん中に見つかるものもある。」

とある。日本の方に理解してもらうのに一番良いのは「金太郎飴」である。棒状の飴をどこで割っても、金太郎さんが出てくる。あれと同じ。ロックのどこを割っても、同じ文字や模様が出てくる。英国では、何故かブライトンやブラックプールのような、海辺のお土産になっている。ミドリが自分で食べるのではなく、友達にあげるのだという。彼は、ミドリが旅行から帰ると、

「お土産のロックは?」

と何時も尋ねるそう。もちろん冗談。旅行に行ったら友達や家族のお土産に「ロック」を買って帰る、それが長い間英国の習慣だったようだ。だから、日本へ帰ろうと、ルワンダに行こうと、地中海クルーズに行こうと、

「お土産にロックを買って来てね。」

という冗談が通用するのである。これは、外国人には難しい。

 

これはトーキーロックではなく、ブライトンロック。どこで折っても、この模様が現れる。

 

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