イングリッシュ・リヴィエラ
トーキーは湾に沿って形作られた町である。向こう岸にマリーナがある。
「おりゃ、何にもない。」
トーキーの駅に十数人の人々と一緒に降り立った僕は、驚いた。「イングリッシュ・リヴィエラ」と言われている、保養地として有名な街。駅前もさぞかし賑やかなんだろうと、勝手に想像していたからだ。しかし、駅前には、車が数台停車しているだけで、店もレストランも、ホテルも、何にもなかった。家さえ立っていない。右側に海が見えたので、そちらへ行ってみる。海岸沿いに道路があり、プロムナードがあり、その向こうが砂浜になっていた。海水浴客は数人、静かな海岸である。
実際、トーキーは、全体において、静かで、落ち着いて、しっとりとした街だった。「海辺の保養地」ということで、僕は、ロンドン南方のブライトンを想像してしまっていた。ブライトンは結構、観光地で、ケバケバしい感じ、店も多いし、人も多い。トーキーの海岸に立つと、湾になっているのが分かり、左側、湾に沿って、斜面に立つ白い建物の一群、丸い観覧車、ヨットハーバーなどが見える。そちらの方が賑やかなんだろうと思う。
「アガサ・クリスティーもこの海岸を散歩していたんだ。」
そう思うと感慨深い。天気は回復し、雲もあるが、太陽が海の上に輝いている。気温は二十度くらい。海からの風が吹き渡り、Tシャツ一枚だと少し涼しい。
先ず、「B&B」(ベッド・アンド・ブレックファスト)に行くことにする。携帯の地図を頼りに行く。距離的には五百メートルもないのだが、街自体が斜面に立っているので、陸の方へ歩くとかなりの登り坂で足に来る。海辺の街はどこもそうなのだが。
インターネットで予約しておいた、「グレンドーワーB&B」の玄関のチャイムを押すと、愛想の良いおばちゃんが中から現れた。彼女が部屋に案内してくれた。小さいが綺麗な部屋で、朝食が付いて五十五ポンド(七千五百円)。まあお手頃な値段である。
「今週末は忙しいんですか?」
とおばちゃんに聞くと、
「学校の夏休みが今週末から始まりましたからね。これから十月まではとっても忙しいんですよ。」
とおばちゃんは言う。僕は、閑散とした砂浜を思い出した。
「人は居るところには居るのかも知れない。何せ、『イングリッシュ・リヴィエラ』なんだもん。」
そう思った。
結果的に、ヨットハーバーの辺りには結構沢山人がいた。しかし、出会った人々の半数は外国人のティーンエージャーだった。色々な言葉を話し、団体で行動している彼等。「サマー・スクール」、つまり、夏休み、寄宿舎制の学校を借り切って「短期英語コース」みたいなものが開催されているようだった。そのティーンエージャーを除けば・・・年金生活に入った、中高年の人が圧倒的に多かった。(僕も含めて・・・)
マリーナにて。青い水と白い船のコントラストがきれい。