桃太郎

 

 

最初の出し物は「桃太郎」である。子供のオサムは、お父さんから寝物語を話してもらっている。

「むかしむかし、あるところに、お爺さんとお婆さんがおりました。お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。すると川上から大きな桃がどんぶりこ、どんぶりこと流れてきました・・・」

おさむくんはそれを聴きながら寝入ってします。 お父さんは、

「子供は罪がないな。」

とつぶやく。

さて、時は移って三十年後、オサムくんは、スコットランド人の奥さんと結婚し、ニューヨークに住んでいる。ボビーという息子ができた。息子はおそらく補習校に行っているでしょうね、日本語も分かる。でも、考え方は合理的な米国人流。オサムくんはベッドに入ったボビーに自分がかつて父親から聞いた「桃太郎」の話を始める。もちろん、英語で。

Once upon a time…(むかしむかし・・・)」

「ダディー、『昔』って何時ごろ?何時代?エド時代?」

「もっとずっとずっと昔や。」

「ダディー、そしたら、アズチ・モモヤマ時代?ムロマチ時代?」

ボビーは補習校で日本の歴史も勉強しているようだ。

「もっとずっとずっと前で、時代の名前がない頃や。」

in a place…(あるところに・・・)」

「ダディー、その場所の名前は何?」

there was an old man and old lady (お爺さんとお婆さんが・・・)」

「ダディー、お爺さんの名前は、お婆さんの名前は?」

ボビーの質問攻めで話は一向に進まない。オサムはその応対にシドロモドロになる。そのうちに、ボビーの反撃が始まる。

「ダディー、時代を明らかにしないのは、この物語が何時の時代でも通用するようにで、場所を明確にしないのは、どの場所でも話せるようにだ。お爺さん、お婆さんの名前を明らかにしないのも、特定の人物と結びつけないことにより、聞いている子供たちの想像力を掻き立てようとするためなんだ・・・」

ボビーは延々と「うんちく」を語る。気が付いたら父親は寝入っている。

「近頃の大人は罪がないな。」

で話は終わり、第一幕は終了した。何度も聴いた話である。しかし「どんぶりこ」の説明に苦労しているお父さんの姿には本当に笑ってしまった。

第一幕が終わって、三分も経たないうちに第二幕が始まる。長身のサンシャインさんだが、身体全体を使っての熱演である。迫力がある。何度も汗を拭っておられる。

 

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