火と本を持った若い姉ちゃん
二番目の出し物は「ちりとてちん」である。旦那さんの誕生日、近所に住むふたりの男が昼ごはんに訪れる。ひとりは何を食べても、
「美味しい美味しい。」
と言って褒める。もうひとりは何を食べても、
「しょうもな、こんなん食べ飽きてまっせ。」
と腐す。知ったかぶりで文句言いの男が、最後は「長崎名物ちりとてちん」、実は腐った豆腐を食べさせられるというストーリー。
この話、実に含蓄があると思う。人生への教訓を含んでいる。
「人間、相手の良い所を見つけて、褒めてあげることで、相手も良い気分になるし、それが自分にも帰って来る。しかし、否定的なことばかり言っていれば、相手の気分を害し、結果的に自分自身が傷つくことになる。」
話の中で、飲み食いする所作が多いのだが、サンシャインさんはお上手で、本当に食べたり飲んだりしているように錯覚してしまう。プロの落語家なのだから、当然なのだが、本当に「芸の細かさ」を感じる。
結局、サンシャインさん、数分の休みを取っただけで、一時間半喋り詰めであった。身振り手振りを入れながら、早口で畳みかけるように話し続ける。そのスタミナというか、バイタリティーというか、とにかく圧倒されてしまった。これまで、英語で落語を語ろうとした落語家は数多い。しかし、彼の場合、落語を単に英語で演じるだけではなく、日本語文化と英語文化の「比較論」になっているところが面白く、ユニークであった。
最後に一番笑ったエピソードをひとつ。サンシャインさんが、師匠の桂文枝さんの公演のため、兄弟子と三人でニューヨークを訪れた。タクシーに乗った師匠は、サンシャインさんに、
「『自由の女神』へ行くように、運転手に言ってくれ。」
と日本語で言った。サンシャインさんは『自由の女神』という日本が分からなかった。しびれを切らした兄弟子が、
「火と本を持った若い姉ちゃんや。」
と言ったので、彼はそれが「Statue of Liberty」であることがやっと分かる。それで、彼はタクシーの運転手に、
「Statue of Libertyまで行ってくれ。」
と言うが、今度はタクシーの運転手が理解できない。最後にサンシャインさんは英語で言った。
「The young woman with fire and book!(火と本を持った若い姉ちゃんや。)」
それで、やっと運転手が分かって行ってくれた、という話。英国でも、タクシーの運転手って、大抵は中近東か東欧から来た出稼ぎにきた人たちか、移民の人たちなのだ。僕も英語が通じなくて苦労した経験があるだけに、笑ってしまった。
<了>