鞭で叩いて
さて、感謝の気持ちを表す表現で次に位置するのが、
「心の底から厚く御礼申し上げます。」
「I must thank you from the bottom of my beating heart.」
これには感心、「心の底」を「beating heart」つまり「脈打つ心臓」と訳したのは実に上手い。感心する。逆に丁寧でない方へ下がっていくと。
「すまん。」
「悪い。」
「『悪い』って『bad』ですよ!何か贈り物をして『bad』と言われても怒っちゃいけません。」
そう言ってまた笑わせる。このネタにはしっかり「落ち」がある。一番丁寧でない、ルードな感謝の仕方は、
「サンキュー。」
「何で英語やねん。」
爆笑の渦であった。
「敬語、相手を尊敬す言葉と共に、謙譲、自分を下げることも、日本語の特色です。」
そう言ってサンシャインさんが話したのが、結婚式における花嫁の父親の挨拶、
「ふつつかな娘で、皆様には何かとご迷惑をおかけすることがあるかも知れませんが、何卒、ご指導、ご鞭撻のほどをよろしくお願い申し上げます。」
「This stupid girl may make mistake and bother you. In such a case, please teach her and beat her with a whip.
(このバカ娘が失敗して迷惑をかけたら、教えて、ムチで叩いてくれ。)
これにも笑った。確かに「鞭撻」は「指導し、正しい方向に導く」という意味だけど、「鞭」は「ムチ」、元々は「ムチで叩く」という意味だったんだよね。
僕が「なるほど」と感心したのは、
「よろしくお願いします。」
というこれも日常的に使われる、しかも結構な曖昧な表現を、サンシャインさんが英語に直したとき。
「Thank you for your kindness in advance.」
(あなたのご親切に、前もってお礼を言っておきます。)
なるほどね。「in advance、前もって」か、そう言えば、「よろしくお願いします」は必ず何かをする前に言うよね。
落語の導入、本題と関係のない話を「枕」という。今まで、書いてきたことは、落語のストーリーとは関係ないいわゆる「枕」である。落語の約束事、日本語と英語の違いなど、落語を聴く上ので「導入部」に当たるのだが、それだけでたっぷり三十分以上の時間があった。ここでようやく本来の落語、「ストーリーテリング」に入っていくようである。