雨の似合う場所
ここに住んでみたいというノリコ。僕はこの景色からガダルカナル島の飛行場を思い出した。
ノリコが螺旋階段の跡を見つけて感激している。
「わたし、階段って好きなんですよね。壁だとそこを誰かが使ったかどうか分からないけど、階段は確実に誰かが使ってますから。」
とのこと。なるほど、階段は過去と現代の接点と成り得るわけである。
僕の気に入ったのは別の場所。城壁の上から見下ろすと、大きなプリンの中に、聖堂の跡が見える。土台の石が、綺麗な十字架の形に並んでいる。僕は何故か、ガダルカナル島の丘の上から見た、ヘンダーセン飛行場を思い出していた。
オールド・サラムに居る間中、細かい雨が降っていた。基本的に僕は雨の日がそれほど嫌いではない。子供の頃は雨の日が好きだった。特に雨の土曜日が。学校から帰り、大河小説の再放送などを見ながら寝転がっている。そんなとき、外が雨だと、妙に落ち着いた、寛いだ気分になれた。今考えると、ずいぶんオジン臭い小学生だったわけである。
ともかく、僕が言いたいのは、カラッと晴れた天気も良いが、雨の似合う時間と、雨の似合う景色もあるということ。特に、緑の多い、苔むしたお寺の庭などは、雨の日が一番美しいと思う。
「夏草や兵どもが夢の跡」
そんな芭蕉の句が浮かんできそうな、このオールド・サラムの地も、雨がよく似合っている。
ソールスブリーの街はもう目と鼻の先である。その日の最後に、街まで行き、大聖堂を見学してから帰ろうということになった。「怠惰な旅行者」の僕一人なら、ストーンヘンジを見終わった辺りで、もう燃料切れを起こし、カラータイマーが黄色に点灯。
「もう十分見た、帰ろう。」
と家路についていたはず。しかし今日はパートナーがいるので、彼女に引っ張られて、自分でも頑張っていると感心する。
オールド・サラムからソールスブリーの街までは約十分。駐車場に車を停め、大聖堂に向かって歩き出す。大聖堂の尖塔の高さは百二十三メートル。街のどこからでも見え、それを目指して歩くには誠に好都合である。
ソールスブリーの街中には川が流れており、その水は実に澄んでいる。そこで鴨や白鳥がいる。なかなか可愛い印象の街である。ノリコはここを訪れるのは初めてらしいが、この街をかなり気に入ったと言った。「ストーンヘンジ」、「オールド・サラム」、「ソールスブリー」の三点セット、日本からのお客を案内する一日コースとしても悪くない。
大聖堂の中に入る。七百円程度の入場料が必要。英国の教会は基本的にどこも只で入れるのに、ここは珍しく有料である。中に入ると、オルガン奏者が練習をしている。僕は教会を訪れたとき、オルガン奏者が練習していると、いつも、何かすごく得をしたような気がする。
「イングリッシュ・ヘリテージに今日から入りませんか」ということで、スタンドが出ていた。どうしようかな。