夜景

 

水面に映る夜景が美しい。右から二つ目が息子の会社のあるビル。

 

シンガポールといえば夜景の美しい場所。僕たちはその日、夜のマリーナ・ベイに出かけることにしていた。七時半にコンドを出て、タクシーでロバートソン・キーへ向かう。ロバートソン・キーは、シンガポールのちょっとお洒落なレストラン街。息子はシンガポールに赴任してから、現在のコンドが決まるまで、この近くのアパートメントに住んでいたという。日本食のレストランも沢山ある。その中の一軒の焼肉レストランで夕食。美味しかったけど、いいお値段。大吟醸の冷酒を飲んだのもあるけど、高かった。

さて、その後は予定通り、夜景を見るためのナイト・ツアー。先ずは、三枚歯高下駄のマリーナ・ベイ・サンズに登る。エレベーターに乗って屋上に上っていると、ときどき停まる階から、バスローブを着た人が乗ってくる。何でやねん、と思っていたら、最上階にプールがあった。つまり、ホテルの泊り客は、部屋で着替えて、エレベーターに乗って、最上階のプール来るの。上からの眺めは最高。しかし、最上階は基本的に泊り客か、バーの客しか入れない。息子と僕たちは、バーに入り、ウェートレスに席まで案内させて、ちょっと窓の外を見るような振りをしながら、写真を撮り、結局何も注文しないで出てきた。建物の真下にある木の形をガーデンズ・バイ・ザ・ベイがきれい。マラッカ海峡を行く船の灯りも見える。

一度下に下りて、今度はオフィスビルのエレベーターに乗る。そこも最上階がレストランになっており、客は眺望を楽しみながら食事ができる。僕たちは、そこでもテーブルを捜すような振りをして、一蹴しながら、景色を見て、結局座らずにまた降りてきた。そのビルからは、直前までいたマリーナ・ベイ・サンズが正面に見えるほか、湾自体も一望できる。夜景も、水に映っていると一段と美しさが増す。水辺の景色は夜になって良い。しかし、一銭も金を払わず、夜景を堪能してしまうという息子の作戦は大したもの。

第二の夜景を楽しんで降りてくるともう十一時前。帰るのかなと思っていたら、

「もう一軒行こう。」

と息子。夜の街のタクシー、どっちへ向っているのか分からない。着いたところは、天井が高くて、ヨーロッパの城のボールルーム(舞踏会場)のような場所だった。

「シンガポールで一番高級なワインバー。でも、良い感じでしょ。」

と息子。確かに、アール・ヌーボーのデザインで統一されていて、落ち着いた雰囲気だが、金持ち以外はお断りという一種の厳しさもある。ソファに腰掛けてさて飲み物を注文。、

「あれれ、あれはチャンのビジネスパートナーだ。」

と、息子が隣のテーブルの若い男性を見ていった。その男性は、息子の高校の同級生の共同出資者だった。黒いワンピースの若い女性一緒で、どう見てもデートの真っ最中。僕たちはふたりに挨拶と握手だけして、席を替わった。デートの邪魔しちゃ悪いもんね。しかし、世界は狭い。そこのワインセラーは、ガラス張りで高さが十メートルくらいある。注文するとお姉さんが梯子を上って、お望みのワインを取ってきてくれるという。でも、そのときは誰も注文しなくて、チャイナドレスのお姉さんが梯子を上るのが見られなくて、ちょっと残念。見たかった〜。

 

シンガポールで一番高級なワインバー。何とオレンジジュースが二十ドル。

 

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