シンガポール動物園

 

中にいる動物も、外にいる人間も多彩なシンガポール動物園。

 

「今日はやっと象さんに会える。嬉しいな。」

僕はバスの隣の席に座っている妻に言った。まるで遠足に向かう幼稚園児。タイで、僕は象が見られることを期待していた。

「タイの人は、象をペットに飼っていて、朝晩象に乗って散歩をしている。」

とまでは思っていなかったが、どこかで見られるのではないかと思っていた。しかし、象には会えなかった。

四川火鍋を食べた後、息子と別れた妻と僕は、地下鉄でアン・モ・キオ駅まで行き、そこでバスに乗り換えて「シンガポール動物園」に向かう。「めぞん一刻」でスイス人の旅行者に会ったとき、

「シンガポールで一番印象に残った場所はどこですか。」

と聞いたところ、「シンガポール動物園」という答えだった。動物が、自然に近い環境で暮らしているのが見えるとのことだった。その言葉を信じて、妻と僕は動物園に向かっていたのだ。

アン・モ・キオのバスターミナルから動物園までは、四十分近くかかった。バスは貯水池に沿って、深い緑の中を走っていく。シンガポールというと、高層ビルが立ち並ぶ都会という印象があるが、北の方へ行くと、自然も結構残っている。動物園は、湖に突き出た半島に作られている。

動物園に入り、まずトラムで一周廻って、だいたいの広さと、どこに何がいるかを把握する。その後、順番に歩いて廻る。スイス人の言っていたことが分かった。どの動物のコーナーも、スペースがたっぷり取られており、緑に囲まれている。基本的に、観客と動物の間は、水の入った堀で仕切られており、ガラスや檻がないので、動物たちが大変見易い。キリン・シマウマ・サイ・象、ライオン等の定番から、マレーバク、ワニ、白い虎、オランウータン、色々な亀や爬虫類など、南アジアに生息している動物も沢山いた。中は結構広い。僕たちは二時から歩き始めて、四時半まで二時間半かかって一通り動物たちを見た。

 動物を見ているのも楽しいが、それ以上に、訪れている人々を観察するのが楽しい。「人種のるつぼ」と言う言葉はこのためにあるのでは。インド系の人、中近東、アラブの人、アフリカの人、ヨーロッパの人、アメリカの人、オセアニアの人、アジアの人も日本人、韓国人、中国人。エトセトラ。よくぞこれだけ雑多な人々が一箇所に揃ったという感じ。そして、皆が童心に戻り、嬉々としてチンパンジーやライオンの一挙一動を眺めている。とっても微笑ましい。

「一番気に入った動物は何だったの。」

と妻が帰りのタクシーの中で聞いてくる。

「虎かな。」

何しろ、僕は生まれる前から阪神タイガースのファンだから。

タクシーはわずか二十五分で、コンドに着いた。行くときは地下鉄とバスで一時間半かかったのに。 

 

世界でここにしかいないホワイト・タイガー。会津の白虎隊のシンボル。

 

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