帰り支度

 

クリスマスプレゼントで、息子夫婦からもらった水彩色鉛筆とそれで描いた絵。

 

「シンガポールに来て、何をしたんやろう。」

と考える。はっきり言って、余り何もしていない。

「何もしないで過ごすのが休暇、ヴァケーションだ。ヴァケーションとは本来『空白』の意味である。」

とおっしゃる方もある。シンガポールに来て、最初の一週間は、よく食事を作った。しかし、それもだんだん頼まれなくなり、体調が悪くなったこともあり、二週間目は何も作らなかった。そもそも、「手が足りていた」のである。誰かが既に受け持っている仕事を、割って入って自分がやる、僕は「割って入る」ということが苦手なのだ。

「ゾイの両親と北京語で話して、ちょっとは進歩した?」

これもノーである。いたずらに、自分の北京語がいかに稚拙かわかっただけ。一体、何をしていたんだろう。

 ともかく、何もしないままに、明日は出発という日になった。こうなるとちょっと忙しい。英国を発つときにやった準備を、逆方向でやらなければいけないから。例えば、出発の四十八時間前にPCR検査を受けたり、今度は英国に入国する際の、入国許可をオンラインで申請したり。昼前に、僕と娘たちは、PCR検査のために、それをやってくれる診療所に向かった。妻もついてきた。もちろん、娘がアレンジしたので、タクシーである。妻がシンガポールに着いた後、妻の手続きをあれこれやったが、結構面倒。これまで、それをほぼ独りでやってくれたモニの苦労が分かった。彼女は、国家公務員で、超オーガナイズお姉さん。我が家で、事務仕事をやらせたら、右に出る者はいない。口うるさいのが「玉に瑕」。

 検査を終わって、街中のホーカーセンターで昼食。息子のマンションに戻る。そして、英国の入国申請の手続きをやる。オンラインで手続きをやりながら、何度か、予期せぬ障害に突き当たって困ってしまう。その都度、何とか解決策を見つけ、申請は一時間以上かかった。

「コンピューターの扱いに比較的慣れている僕でさえ、困ることがあるんだもん。普段から全然コンピューターやスマホに縁のない人たちには、敷居が高すぎるよな。」

と思う。

「コンピューターやスマホくらい使えない人間に、海外に行く資格はない。」

それが、今の考え方なんだろうな。

 最後の夜も、エレンさんハンさんも加え、家族全員が集まり、九人で食卓を囲み、焼き肉が始まった。

「気分が悪くなったら、黙っていればいいのよ。あなた一人くらい話をしなくても、誰も何も思わないわ。」

そう妻が言ったので、僕は余り話さず、食べる方に専念。食後、ハンさんが持参した「高粱酒」を皆に振る舞った。何とアルコール度六十二パーセント。腹の中に火が点いた。

 

息子のマンションのバルコニーからの景色。中庭がプールになっている。色々な深さ、暖かさのプールがあり、完ぺきに掃除されている。

 

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