妻が到着
「祖父ちゃんズ」、中国語では「爷爷」(イエイエ)。
僕と娘たちがシンガポールに着いてから一週間後、妻のマユミが到着した。色々な検査や書類、手続きがあり、ヒヤヒヤする場面が多い旅だが、僕と娘たちはまだ三人いるということで、心強かった。妻は独りで、心細いこともあったと思う。
「まあ、無事に到着出来てよかった、よかった。」
と妻と電話で話す。後から来た者が得をすることもある。それは、もう勝手が分かっているという点。昼前にホテルに入った妻だが、「予定通り」午後四時ごろにはPCR検査の結果が分かり、夕方、僕が妻をホテルまで迎えに行く。時差ボケも感じさせず、元気そう。
一度息子のマンションに入り、その後、イースト・コーストにある「ジャンボ」という海鮮レストランに食事に行った。息子と妻は自転車で、僕と娘たちはタクシーで向かう。先に着いた僕たちは、海岸のベンチに座って、海峡を通過する船を見ていた。
外で食べる場合は人数の制限がないのか、その日は家族五人でひとつのテーブルを囲むことができた。
「久しぶりやねえ。こうやって揃うのも。」
家族五人が顔を合わせるのは、二年三カ月ぶりである。息子が料理を十種類くらい注文した。そこは。蟹が有名な店らしく、メインは立派な蟹。赤いソースが掛かっており、ソースは結構甘かった。小さな揚げパンのような物がついており、それを蟹のソースに浸して食べる。蟹からの味が出ている。冷たいビールとよく合う。
僕は妻が来て、ホッとしていた。ストレスから来る過呼吸がひどくなり、一日に数回発作が起こることもあった。過呼吸自体は、命に全然別状ないものなのだが、発作が出ると身体が消耗するのと、その発作が引き金になって、「パンドラの箱」を開けたように、他の不安もゾロゾロと出てくる。結構辛い状況に差し掛かってきていた。
「あなた、疲れた顔をしてるわね。ストレスが一目で分かるわ。」
と妻。
「ママの面倒はパパが見てね。」
という空気になっていた。それで、夫の僕がコロナ検査の予約、アテンド、その他を引き受ける。妻の到着後三日目、彼女と一緒に、テストセンターに行く。息子と娘はどこに行くのもタクシー。僕は、「土地勘を養うのはバスに限る」という変な信仰があり、どこへ行くのもバス。
昼過ぎに検査を済ませた妻と僕は、検査場の近くのスーパーで夕食の買い物をしていくことになった。買い物を済ませて外に出ると、バケツをひっくり返したようなスコール。僕たちは、バス停の前のバーで、ビールを飲みながら雨宿りをした。
「今日は、クリスマスイヴやね。」
と妻に言う。妻と久しぶりに飲むのはとても楽しかった。これで、気分が戻るといいが。
マリナ・ベイのオフィス街。バックの高層ビルの中に、息子の会社のオフィスがあるとのこと。