孫との対面
大きくなっていた孫、でも、あれから一か月、またすっかり変わってしまった。
ロンドンを正午に発って、延々十三時間の飛行機の旅の後、翌朝九時前にシンガポール、チャンギー空港に着いた。英国とシンガポールの間には八時間の時差。英国では午前一時である。飛行機の中で眠れるようにと、睡眠剤を飲んだので、まだ何となく目の前に霧が掛かったよう、足元も少しフラつく。シンガポールは三回目だが、チャンギー空港は、これまで乗り換えで何度も利用している、お馴染みの場所である。飛行機を降りて、まずPCR検査を受ける。二十四時間以内に結果がEメールで連絡され、陰性ならばその後外出してよいことになっている。娘たちは空港で、携帯に入れるSIMカードを買っている。僕は買わなかったが、これを後で後悔することになる。
十時半ごろに荷物を取って、外に出る。
「結構涼しいやん。」
娘に言う。着陸時の案内では、気温は二十八度。それから少し上がっているかも知れない。確かに冬のヨーロッパから来た人間には少し暑いが、圧迫感のある暑さではない。十二月のシンガポールは雨季、気温はそれほど高くない。二週間の滞在中、最高気温は三十二度くらい、真夏の京都の四十度近い暑さに比べると、遥かに過ごし易かった。確かに殆ど毎日のように雨が降ったが、この涼しさには助けられた。
タクシーで十五分ほどの隔離先のホテルに向かう。先ずはホテルで、PCR検査の結果を待たねばならない。十一時ごろにチェックインを済また後、部屋で待機する。娘たちはひとつの部屋、僕は別の部屋にいる。飛行機の中で眠ったので、不思議に眠くはない。地球をほぼ三分の一周したのに、遠くへ来たという印象はない。目を覚ましたら、別の場所にいたって感じ。
午後四時、ミンに「陰性」のメールが届く。息子のワティが迎えに来てくれると言う。一時間後に、モニと僕にも結果が届き、六時ごろ、バスに乗って、息子の住むマンションに向かう。息子に会うのは、彼の結婚式以来、二年ぶりである。
彼のマンションで、始めて孫のエンゾーに会った。抱いてみると、ずっしりと重い。スーパーで十キロの米を買い、それを車まで運んでいるときと同じ重量感がある。八月に生まれてもう四か月。
「もう七キロ以上あるのよ。」
と嫁のゾイが言った。
初孫を抱いたときの気分。それは、息子が産まれた時にも感じた、奇妙な安心感だった。
「これで、僕は生物学的な義務を果たした。」
とでも言おうか。人類のみならず、コロナウィルスに至るまで、生物は、自分の種を後の世代に伝えようという「本能」がある。息子が産まれたとき、僕は。生物として子孫を残したという、感慨というか満足感があった。今回、孫を抱いたときも、もちろん、可愛いとも思ったが、これで更にもう一世代子孫を残せた、そんな達成感というか、満足感に襲われた。
息子のアパートは海に近い。朝の海岸、沢山の人々が、思い思いのスピードで歩いたり走ったりしている。