息子のコンド
コンドの前で息子と一週間ぶりの涙の再会をする。
例によって、タクシーの運転手と話をすることになってしまい、色々とシンガポールの自慢話を聞く。タリバーンの自慢話よりはずっとましだよね。雨の後で、道路には水が溜まっている。ネットリとした湿気は感じるが、暑さはそれほど感じない。今回、シンガポールに来るにあたって心配していたのが「暑さ」。夏でも涼しいヨーロッパ生活が二十五年を超える妻と僕に、いきなり三十何度の世界はちょっと厳しい。
「これくらいの気温なら楽勝やん。」
とそのこきは思った。
「今、モンスーン・シーズン、つまり雨季ですから、一年で一番湿度が高いですよ。」
一年前にシンガポール支社から英国に転勤してきたTさんから、出発前、一応「警告」を受けていた。確かに、僕たちの滞在期間中、シンガポールでも、タイでも毎日雨が降った。しかし、モンスーン・シーズンも悪くない。湿度は高いが、気温がそんなに上がらないから助かる。どれほど湿度が高いかというと、外を歩いていると、眼鏡がだんだん曇ってくる。最後は、眼鏡なしのほうが良く見えるほど。眼鏡にワイパーが必要になるくらい。
「ご旅行ですか。」
というタクシー運転手の問いに、
「息子がロンドンから昨年シンガポール転勤になったもので。一度訪ねようと思って。」
と返事をする。
「じゃあ、あれが息子さんですかね。」
と、運転手が指差す。巨大なコンドミニアムのゲートに息子が立っていた。タクシーを降りて息子と再会する。実に、「一週間ぶりの再会」。彼は先週末英国にいたんだもん。
シンガポールにいる間、息子のコンドミニアムに居候をした。コンドミニアム、縮めて「コンド」という呼び方は、日本だけではなく、英国でも余り使われないみたい。日本だと「アパート」と言うだろうし「英国」では「フラット」と呼ぶのかな。しかし、「アパート」とか「フラット」と言うと、何となく、「二DK、ユニットバス付、二十五平米、コンビニまで歩いて一分、駅から歩いて五分の物件」なんかを想像してしまう。そのイメージと余りにもかけ離れているので、敢えて「コンド」と呼ぶことにする。
「近藤が今度コンドを買うんやて。」
ということになってしまう。
ともかく、彼の住むコンド「カリビアン」は数百世帯が住む大きなもの。中庭には五十―メートルプールがあり、各室専用エレベーターがある。ということは、エレベーターに乗り、鍵で作動させ、チーンと言って扉が開くと、そこが自分の家の玄関なのである。お値段も結構張るらしく、住民は外国人が多い。「お金を持っている外国人」の代名詞というと、日本企業からのエクスパット、つまり出向社員。ワタルのコンドにも、日本人の家族が大勢住んでいた。午後三時ごろにゲートを通ると、日本人学校や、幼稚園のスクールバスを待つ、若い日本人のお母さんたちで、その一角が日本化している。
下手なホテルよりよっぽど居心地の良い、コンドミニアム「カリビアン」。気分はもうカリブ海。